研究概要 |
疾患バイオマーカー探索研究として、低分子代謝化合物をターゲットとしたメタボライトプロファイリング(MP)技術に注目が集まっている。本研究では、このMP技術を用い、二つの方向から実験を行った。 一つは新規バイオマーカーの発見が求められているアルツハイマー病(AD)を対象に網羅的MP潜在的バイオマーカー探索研究を行った。もう一つは、糖尿病(DM)患者の血中での増加が報告されている乳酸(LA)、β-ヒドロキシ酪酸(HA)を、誘導体化試薬を用いた標的MP技術により、唾液における新規非侵襲診断法の開発を試みた。誘導体化試薬には、8種のキラルなアミンからスクリーニングにより見出したMS/MS用キラル誘導体化試薬を用い、光学異性体間での差も考慮した。 (1)網羅的MP:対照群、AD群のヒト脳10検体ずつ(部位:前頭葉、頭頂葉、後頭葉)を前処理後、LC-MSにより分析した。採取したデータをもとに多変量解析により、疾患特異的バイオマーカー候補化合物を絞り込み、各々の部位及び測定条件について結果を比較した。結果、老人斑の発現が多い前頭葉では、健常人と比較して成分に明らかに差があり、さらにAD群10検体全ての主成分が類似していたため、低分子バイオマーカーの存在が高い確率で示唆された。またマーカー候補化合物を抽出した結果、アミノ酸代謝物がいくつか見出された。この代謝系周辺の化合物を定量し変化を検討した結果、AD群に特異的なポリアミン代謝系の異常を発見した。この変化は脳部位により違い老人斑形成による可能性が示唆された。 (2)標的MP:誘導体化試薬を除タンパク済みの唾液と反応させ、標品と比較し、唾液中のLA,HAの検出を確認した。その後各種バリデーション試験を行い、定量法を確立し、同様の方法で健常人、DM患者10検体ずつで唾液中DL-LA,DL-HAの定量を行った。結果、LA,HAともにDM患者において増加傾向であった。またLAに関しては、DM患者においてD体の増加傾向が大きかったため、D/L-LA比がDM診断の新たな指標となる可能性が示唆された。
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