研究課題/領域番号 |
12J05726
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
筒井 陽仁 静岡県立大学, 大学院薬学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | アルツハイマー型認知症 / 病態メカニズム / 質量分析 / 多変量解析 / ポリアミン / オルニチン脱炭酸酵素 |
研究概要 |
現在のアルツハイマー型認知症(AD)の病態仮説は、アミロイド(Aβ)を主成分とする老人斑の形成を原因とするアミロイド仮説が最も有力で、臨床的にも確認されていた。この考えをもとに近年Aβワクチンが開発され、世界各国で臨床試験が行われています。しかし、現在までに期待通りの効果の報告は少なく、逆に、死後の病理検査で脳内のAβが消滅していたにもかかわらず、生前の症状は改善されていなかったという報告が多く聞かれている。こうした現状から、アミロイド仮説に否定的な意見が聞かれるようになり、新たなAD病態メカニズムの解明が求められるようになった。そこで本研究では、死後にADの確定診断を受けた脳組織内の低分子代謝物を網羅的に分析し、AD脳内で起きる代謝変化を分子レベルで解析することで、新たなAD病態メカニズムの解明を目指した。分析には、試料中成分の精密質量を測定できる質量分析装置を用い、脳内に存在する分子量千以下の低分子代謝物を分析した。そして、得られたAD患者および健常者の膨大な脳内低分子成分データを、多変量解析技術を用い比較し、AD患者脳内で特異的に変化する四十一種の化合物を見出した。その中でも、AD脳で増加マーカーとして抽出された、スベルミジン(SPD)とスペルミン(SPM)は、現在のAD治療薬であるメマンチンの標的受容体であるN-メチル-D-アスパラギン酸受容体のアゴニストであることが知られている化合物であった。そこで、AD脳での代謝変化をさらに詳しく調べるため、SPD、SPMの代謝に関わるオルニチンをはじめとする六種のポリアミン化合物について、脳内の濃度を測定した。その結果、AD脳内ではオルニチン代謝に関わる、オルニチン脱炭酸酵素(ODC)の活性が強いことが示唆された。このことは、脳組織切片を用いた免疫染色によっても確認しており、AD発症とODCの関連性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載したメタボローム解析技術を用いたバイオマーカー探索について、研究が計画以上に進み、技術の応用としてアルツハイマー病のバイオマーカー探索を行った。そして、アルツハイマー型認知症の病態メカニズムに関連する2つのバイオマーカー候補を見出すことができた。さらに、病理学的な免疫染色などによる確認試験も行えたため、かなり信頼性の高い結果が得られたと考えられた。QuEchERs法を用いたメタボローム解析のための前処理検討については、現在実験を進めている最中であり、今後はバイオマーカーの同定が課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
アルツハイマー病のメタボローム解析については、ODCの酵素活性を調べることにより、疾患特異的な代謝の変化の解明を検討していく。さらに脳細胞を用いた、生化学的な実験を行い、in vitro実験での結果の裏付けを行っていく予定である。また同時に代謝解析技術の向上を目指し、QuEchERs法前処理による解析結果の変化を調査し、最適な前処理法を検討していく。そしてバイオメーカー候補化合物については、LC-MS/MSを用い病態における変化を詳しく調べ、血液等での変化を調べることにより、早期発見に応用可能なバイオマーカーとしての有用性を確認していく。
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