欧州原子核研究機構(CERN)に滞在しながらLHC-ATLAS実験に参加し、2012年に発見したヒッグス粒子の性質を研究した。ヒッグス粒子は素粒子の質量の起源となり、標準理論で最後に発見された粒子である。そしてLHC加速器は現在稼動している唯一のヒッグス粒子生成装置である。この新粒子の性質を詳細に研究することで、標準理論を完成させ、さらに標準理論を越えて新たな素粒子物理学のパラダイムを構築することを目指した。 特にヒッグス粒子が二光子に崩壊するモードを特に解析しており、このモードはヒッグス粒子の発見感度が高いだけでなく、性質測定を進める上で、様々な物理的長所をもつ。特に質量測定においては、現在最も高い精度を実現している。 質量測定においては、電磁カロリメータの、光子に対するエネルギースケールの精度が最も大きい系統誤差として寄与する。これを改善するため、Zボソンがレプトン対に崩壊し、終状態輻射として光子を出す事象を用いて、実光子によるエネルギー較正を開発した。また統計手法の改善により、光子の同定効率の系統誤差を半減させ、ヒッグス粒子の結合定数測定の感度を向上させた。 解析の結果、信号強度(断面積と崩壊分岐比の積)を21%の精度で、質量を0.6%の精度で測定した。これらの結果は標準理論と無矛盾である。これらの結果から、様々な物理的考察が可能である。例えば標準理論ではヒッグス質量からヒッグスポテンシャルを決定できる。ここから対称性の破れのダイナミクスが見えてくる。これは宇宙初期の物理を解き明かす上で、非常に重要なテーマである。 CERNでは多くの海外研究者と活発に議論を交わしており、ヒッグスを研究するグループ内での発表も数多く行った。
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