研究概要 |
他者からの被排斥経験は,多方面に渡り人にネガティブな影響を及ぼす。そのため,他者からの排斥を迅速に検出することはその後の対処行動を促進するため適応的であると考えられてきた。しかしながら,従来の研究では他者からの排斥に対して敏感であることは,必ずしも適応を予測しなかった。これは,従来排斥の敏感さの指標として用いられていた拒絶感受性(Rejection sensitivity : RS)が,排斥検出の敏感さではなく,その後の行動の特殊性を反映していることに由来する。 本年度は,排斥検出の敏感性そのものを反映する「排斥状況検知能力尺度」を作成し(Ability to Detect Social Exclusion : ADSE),拒絶感受性との特殊性について,社会心理学的手法を用いた縦断調査,社会神経科学的手法を用いた実験を行った。縦断調査の結果,ADSEの高さは過去の良好な対人関係や将来の受容経験を関連していたのに対して,RSの高さは過去の劣悪な対人関係と将来の排斥経験と関連していた。実験の結果,RSの高さは排斥手がかりに対して迅速な認知的回避と動機的注意の増大と関連していたのに対して,ADSEの高さは排斥手がかりの判断の正確さを導く認知過程と関連していた。これらの結果から,RSは不適応な行動傾向と関連しているのに対して,ADSEは適応的な行動傾向と関連していることが示された。そのため,排斥検出そのものの敏感さは,適応的な認知・行動を予測することが示唆された。
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