最終年度である本年は、異種機能集積技術を用いることで広帯域化を含む高機能化を実現する無線トランシーバを設計し、その試作評価を通して有効性を確認した。 昨年度は、無線送信回路の高機能化について研究を進めてきた。本年度は、送信回路単体からさらに無線トランシーバにまで発展させることにより、さらなる高性能化、そして高機能化を実現した。具体的には、本無線トランシーバは、バッテリーレスで動作し、さらに周波数利用効率の高い無線通信を行うことが可能である。 バッテリーを搭載せずに無線トランシーバを動作させるため、送信回路および受信回路の消費電力は極めて低くしなければならない。従来トレードオフ関係にある消費電力と周波数利用効率を、同時に向上させるため、昨年度提案した送信回路をさらに進化させた直交バックスキャタリング送信回路を提案した。直交バックスキャタリングは、異種機能集積技術をもとに考案した技術であり、従来のバックスキャタリング技術の低消費電力に加えて、直交変調を可能にすることで、周波数利用効率を向上させる。 以上の無線トランシーバを、実際にSi CMOS 65nmプロセスを用いて試作し、提案技術の有効性を確認した。試作した無線トランシーバは、送信回路において、113μWの消費電力で32QAM変調という非常に周波数効率の高い変調方式を実現した。そのときの、データレートは2.5Mbpsであり、無線通信の評価指標である1bitあたり通信するのに必要なエネルギーは45pJ/bit、また周波数利用効率を示す1Hzあたりの通信容量は3.3bps/Hzである。この結果は、100μW程度という低い消費電力の無線トランシーバの周波数効率としては、非常に高いものであり、半導体のオリンピックとも呼ばれる国際固体素子回路会議 (ISSCC 2015) において発表を行った。
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