研究概要 |
歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisは,歯周病の発症・進行に関与すると考えられているが,その詳細なメカニズムは未だ不明である.そのため,歯周病の治療は,スケーリングなどによる細菌の機械的除去に依存しているのが現状である.本研究では,P.gingivalisの口腔内生存戦略を解明することを目的として,重度歯周病からの分離株TDC60のゲノム配列決定と比較ゲノム解析,ならびにP.gingivalisの種内多様性解析を行ってきた. その中でまず,ゲノム配列が既知である実験室株のゲノムには存在しないTDC60特異的遺伝子のうち8個の機能未知遺伝子を,線毛遺伝子などの経時的転写発現パターンとの類似性から,新規病原性遺伝子の候補として選出した.また,ゲノム配列ならびに特定の遺伝子座の塩基配列の解析から,P.gingivalisがゲノム再構成・遺伝的組換えによって種内多様性を創出する菌種であることを示した.さらに,細菌の獲得免疫機構として近年注目されるclustered regularly interspaced short palindromic repeat(CRISPR)の解析から,P.gingivalisのCRISPRはゲノム再構成・遺伝的組換えの両者を抑制的に制御している可能性を示した. 本研究で選出した新規病原因子の候補は,P.gingivalisを標的とした創薬の可能性を秘めており,歯周病の新規治療法の開発につながると考えている.また,2gingivalisの種内多様性制御仮説は,細菌種p.gingivalisを標的とした歯周病治療法を考える上で有用なだけでなく,一般細菌学においても他の細菌種の進化戦略を解析する際に活かし得る知見であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,当該年度中に提唱した仮説の検証を行っていくべきであると考えている.その際,多数のP.gingivalis菌株のゲノム配列を決定することで,P.gingivalisのゲノム情報が充実して細菌学的に有用なだけでなく,未知CRISPRの同定などによって仮説の検証を助けるものと期待している.また,CRISPRの機能を実験的に検証することも計画している.
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