研究概要 |
平成25年度は, 満洲語の属格標識に関する問題について重要な問題を扱った。属格標識(-i)は満洲語において最もよく用いられる文法形態素でありながら, 従来簡単にしか記述されてこなかった。詳細な記述が妨げられてきた原因として, 時代差や個人差が軽視されていた事, 繋辞の連体形と属格主語の記述に問題があった事が言える。平成25年度にこれらの問題に関して大きな進展を見た。 ・満洲語訳『三国志』(順治7 (1650)年序)を主に属格の用法に注目して前年度に引き続き分析した。その結果として, (狭義の)所有関係を表さない属格標識の用法のうち「動詞の未完了連体形が属格標識をともなう用法」, 「数量詞が属格標識をともなう用法」に関して, この資料の後半部分で属格標識の使用の衰退(-iの使用の減少)が見られた。このうち「動詞の未完了連体形那属格標識をともなう場合」は他の資料と比較すると時代差である可能性が高い。属格標識の多機能性を分析する上でこのような差異の存在は重要であると考えられる。 ・繋辞連体形と属格主語コーパス中のいわゆる繋辞連体形の用法を網羅的に分析する事により, 繋辞に関する従来の記述に反して繋辞の連体形がゼロ(音形なし)になり得る(むしろ通常はゼロである)事, そして属格主語に関する従来の記述に反して, このゼロの主語が属格主語になり得る事が判明した。この事実により, アルタイ諸言語において珍しい「同格の属格」など, 十分な記述が行われてこなかった属格の用法について合理的な記述をする事ができる。 ・また色彩語について報告者は既に清代の黒を表す色彩語に時代差がある事を把握していたが, この分析を発展させ, 満洲語に起きた色彩語の変化がシベ語と満洲語の言語接触の結果としてシベ語(シベ語は17世紀の時点で満洲語と別の変種であった可能性が高い)に影響を与えた可能性がある事も指摘し論文として発表した。
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