研究概要 |
動脈再建を伴うラット同所性肝移植の手技を習得し、ラット心停止ドナー肝移植モデルの心停止時間(温阻血時間)の評価を行った。温阻血時間45分、60分の2群で評価した所、両群共に全例生存した。肝移植術後7日目の血清および肝組織の評価を行った。血液データではAST, ALT, T-Bil値に両群間で差を認めなかった。HE染色では両群共にグリソン領域の炎症細胞浸潤を認めるものの肝小葉構造は維持され、肝細胞に強い傷害を認めなかった。動脈再建なしのモデルで認められた様な大きな壊死領域を認めなかった。心停止時間を60分よりも長くすると肝グラフトの灌流時に灌流不良領域が著明に増大したためより長時間での評価は行わなかった。 温阻血時間を60分として肝移植を施行し、肝移植後にレシピエントに対して肝細胞移植を行った所、肝グラフトの著明な色調変化を認め、術後1日目に死亡した。温阻血時間を45分とし肝細胞移植の投与方法を脾臓経由とした。肝細胞移植を行わない群と生存率を比較した所(n=4)、有意に生存率が低下した(p=0.0020)。肝細胞移植群で生存したラットを術後28日目に儀牲死せしめ肝組織中に移植した肝細胞が生着しているかを評価したが、肝臓内に明らかな移植肝細胞の生着を認めなかった。 ラット肝移植モデルにおいては、60分の温阻血・再灌流傷害は肝細胞にとって可逆的であると考えられた。このモデルにおいては術後の生存を規定するのは肝グラフト内の循環傷害であると推察される。これらの結果から、微小循環傷害の問題を解決すれば心停止後1時間の肝グラフトも利用可能となる可能性が有るという点、心停止ドナー肝グラフトの肝細胞移植の細胞源として利用出来る可能性についてさらなる研究・検討の価値があると考える。
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