研究概要 |
通し回遊魚・広塩性魚類には, 固有種や絶滅危惧種など, 水産上・保全上重要な魚種が含まれる. 今年度は, 遡河回遊魚エツ, ベトナム・メコンデルタに生息するマッドスキッパーの一種ホコハゼPseudapocryptes elongatuSに着目し研究を行った, エツCoilia nasusは, 福岡県では好んで食されている水産上重要種であるが, 大陸遺存種で日本では有明海にのみと限られた生息域を持つため, 資源管理と種の保全の観点からも, その回遊生態の理解は必要不可欠である. また, ベトナム・メコンデルタに生息するホコハゼは, 現地で盛んに養殖されているにもかかわらず, 養殖用の種苗は天然の稚魚に依存したもので, 天然環境下における生態はほとんど明らかとなっていない. そのため, これら通し回遊・広塩性魚類についての研究は, 水産学・保全学上共通の課題である. 本年度の主な研究成果を以下に示す. 1. 筑後川-有明海におけるエツの耳石Sr : Ca比の変化パターンを解析した結果, 未成魚期初期の降河イベントの時期とその度合いは, 個体ごとに異なることが示唆された. これにより, 大陸の近縁種で報告されているような湖沼による陸封以外にも, 本属魚類の遡河回遊生活史に多様な変異が生じうる可能性のあるものと考えられた. 2. 今年度は, 現地でのホコハゼサンプリングを継続するとともに, 昨年度の結果とあわせ, ホコハゼは仔魚期に淡水を経験せず, その期間は40日程度であることと, これまで記載されていなかった仔稚魚の形態的特徴と計数値についてとりまとめ, ミトコンドリアDNA cytochrome oxidase subunit I遺伝子の塩基配列を基に近縁のOxudercinae亜科4属との系統関係の比較を進めている.
|
今後の研究の推進方策 |
現在の計画を予定通り進め, 標本採集および耳石実験を継続する, また新たに, 造伝子を使ったOxudercinae亜科について系統関係の推定を行う, 得た成果は、順次取りまとめ発表する.
|