研究実績の概要 |
水産上重要な広塩性魚類について, その生態を理解することは, 気候変動や環境の人為的改変が急速に進む現在において, 水産学・保全生態学上の喫緊の課題である. そのような広塩性魚類の中には, 海と川を行き来する通し回遊を行うものや, 陸上への適応を進めた両生生活を行っているものがある. そこで本研究では, それら魚類の生活史特性や回遊環を明らかにすることを目的として研究を行った. 今年度は, ベトナム・メコンデルタで盛んに養殖されているにもかかわらず, 養殖用の種苗は天然の稚魚に依存しているOxudercinae亜科(トビハゼ・ムツゴロウを含むハゼ科の1グループ)のホコハゼPseudapocryptes elongatusを主な研究対象とした. 現地で養殖用のホコハゼ種苗として採集されているOxudercinae亜科稚魚をサンプリングし, ミトコンドリアDNA cytochrome oxidase subunit I遺伝子の塩基配列を決定して厳密な種同定をおこなった. その結果, ホコハゼ仔稚魚と非常に類似した形態的特徴を持つParapocryptes属やScartelaos属の稚魚が出現し, ホコハゼとともに混獲されていることがわかった. また, DNAにより成魚と同一の配列を持つホコハゼ稚魚について, はじめてその形態を記載した. また, これまで2年間にわたり, 筑後川河口域において採集されたエツ計215個体について, 耳石Sr:Ca比による回遊パターンの解析を進めたところ, 1)未成魚期の初期に比較的高塩分を示す水域を利用した群と, より長期にわたって淡水域・低塩分の水域に滞在した群に大きく二分されることがわかった. ウナギ属魚類については, ニホンウナギの個体群特性が水系ごとに異なることを明らかにしたこれまでの研究成果を取りまとめ, 原著論文としてFisheries Science誌で発表した.
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