研究課題/領域番号 |
12J05850
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石橋 遼 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 認知課題開発 / 意味認知 / 道具 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
本年度前期は英国マンチェスター大学のMatthew Lambon Ralph教授のもとに滞在し、共同論文の執筆及び新規研究計画の打ち合わせを行った。後期には京都大学で健常被験者を対象とした行動実験に注力し、特に単語の類義語判断課題(Synonym Judgment task)と道具の意味に関する一連の判断課題(tool matching tasks)を開発し、完成させた。また、大脳皮質の非侵襲刺激法を利用した研究で近年知名度を上げているマンチェスター大学のGorana Pobric博士の招へいに主体的に関与し、11月-1月の同博士の滞在と、共同研究計画の開始・進展に注力した。 昨年度より作成を進めていた道具の操作(使う際の体の動かし方)判断課題に加え、道具の機能(使用する目的/文脈など)判断課題を作成し、大学生を対象に課題を行って反応時間/正答率のデータを取得した。本課題では167枚の道具の写真を用いて、使用時の体の動き(操作)もしくは使用する目的(機能)が似ているものを選択肢から選場セル課題であった。まったく同一の刺激群を用いるこれら2課題(操作マッチング・機能マッチング)は、先行研究において、道具の意味の異なる側面の認知的処理を促し、大脳皮質上においても異なる位置を活性化させることがわかっている(Boronat et al., 2005: Canessa et al., 2008). 大脳皮質非侵襲刺激によってこれらの部位の脳活動の変化を促しその効果を知ることが本研究の最終目標であるが、そのために同程度の難易度で2つの課題を実施することが理想的である。12人の被験者からのデータによって試行をランダムに2分割し、どちらの課題においても平均反応時間差が15ミリ秒以内、正答率差が0.3%以内となるような、極めて難易度の近い40試行のセット2つを作成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は使用予定であったMRI機器の故障等により生理的データ収集に関しては進展が限られたものの、行動データの収集においては大きな進展が得られた。まず研究実績の概要に記したように道具の機能・操作判断課題について一貫性の高い試行セットを抽出でき、また派生的実験として単語の意味認知課題を開発し、一試行あたりの時間制限などの各種パラメータについて最良と思われるものを確定できた。大脳皮質の非侵襲刺激の一度あたりの効果は安全面の観点からも微弱なものにとどまらざるを得ず、その確認には高いレベルで統制された行動課題を必要とする。本年度はこの目的に照らして研究の最重要課題を達成し、実際の皮質刺激を行う次の段階へと進める準備が完全に整ったといえる。またこのことによる発展的効果として、6名の脳損傷患者群に、開発した課題の簡易版を実施している。大脳皮質刺激はその性質上、大脳損傷患者の認知機能の障害やその回復につながる知見を得られる可能性が高く、最終的な研究データをこれら患者群データとあわせて統合的に解釈することで、将来の治療補助方法としての大脳皮質刺激に関わる重要な知見を提供できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は実際に大脳皮質の非侵襲刺激法を用いて、健常群でその効果を検討する。非侵襲の大脳皮質刺激法として、経頭蓋直流電流刺激法(tDCS:transcranial direct current stimulation)を用いることを予定している。tDCSは大脳皮質の神経細胞の発火頻度を調整する作用があると考えられており、神経細胞の強制的発火を伴う経頭蓋時期刺激法(TMS)に比べて、てんかん誘発などのリスクがより低い刺激法であるとされている。また、電極の極性(+/-)の設定により、皮質活動の促進・抑制効果を簡易に志向できることもその利点の一つである。今後の研究ではtDCSのもたらしうる皮質活動の促進的効果の検出に焦点を当て、道具及び単語の認知課題中に脳内の特定の部位にtDCSを与えることで、課題成績が向上するか否かを確認することを目的とする。刺激部位として、道具課題では意味認知中枢とされる左前側頭葉(ATL)に加え、道具の操作方法の認識・処理に重要とされる左下頭頂小葉(IPL)を対象とする。単語の意味認知課題では先行研究でTMSを用いたときの課題成績低下が確認されている左ATL領域のみをまず対象にして実験を行う。どちらの場合にも陽極直流電流刺激(anodal tDCS)を適用したときに課題成績の向上が起こるのではないかと考えられる。微弱とされるtDCSの効果の検出可能性ができる限り高まるように、実験参加者の課題への集中度や疲労度など、成績に影響を与えうるほかの要因をできる限り厳密に統制する計画を持って実際の実験実施に望む。
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