研究課題/領域番号 |
12J05902
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
栗本 賀世子 鶴見大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 殿舎 / 皇妃 / 後宮 / うつほ物語 / 源氏物語 / 内裏 |
研究概要 |
本年度の最大の成果としては、東京大学大学院に提出して2013年に博士の学位を取得した論文を元に書き上げた著書『平安朝物語の後宮空間―宇津保物語から源氏物語へ―』が挙げられる。平安京内裏で皇妃たちの住まう後宮殿舎についてそれぞれ史料を徹底的に調査する中で新たに知り得た情報を手掛かりに、現存する最古の長編物語で、初めて後宮に関する詳細な記述を有した『宇津保物語』と、その影響を多大に受けつつも、さらに発展させ、巧みに後宮を描き出した『源氏物語』の二作品を考察し、その後宮空間を描き出す方法に迫ったものである。 第一編ではこれまであまり取り上げられることのなかった『宇津保物語』の後宮殿舎の設定が、どれも皇妃の居所として決して無作為に選び出されているわけではなく、史実におけるその殿舎のイメージを投影しようとする作者の意図によって設定されていることを論じる。第二編では、従来『源氏物語』作者独自の工夫と見なされてきたいくつかの後宮殿舎設定の源泉が、実は『宇津保物語』にあること、しかし『源氏物語』の設定は『宇津保物語』に倣いつつもそこから格段に進化させていることなどを明らかにした。最後の第三編では、他作品には見られない『源氏物語』の後宮殿舎の記述やその用いられ方に着目し、それらがいかに物語の文脈にそって自然に設定されているか、のみならずその場面の読みを深める鍵となっていることについて分析する。『源氏物語』という作品は、調べつくされ、これ以上検討の余地がないと思われがちであるが、後宮殿舎設定一つをとっても、見過ごされていることが多々あることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究成果をまとめて著書とすることができたが、その一方で、当初計画していた桐壺や登花殿などのいくつかの後宮殿舎に関する論文については書き上げることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き、後宮の殿舎が史実において用いられた例を国史・古記録を中心とした史料から網羅的に見つけ出し、利用者の身分や使用方法についての傾向を把握するため、各々の殿舎にまつわる史実を整理した一覧表を作成し、早い段階で完成させる。そして、3年間にわたる作業を通して見えてきた後宮殿舎それぞれの格付けや特徴について総合的にまとめ、明らかになった後宮の全体像について物語の後宮と関連付けていく。その上で、後宮の設定の背後にある作者の意図を理解し物語の読みを深めることが最終的な目的である。ただし、この研究方法では、史実との比較に偏りすぎて物語の本文そのものの解釈がおろそかにならないよう注意する必要がある。
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