当該年度に実施した研究においては、ヘリックスペプチドの電子移動能を解明し、フォトダイオードへの応用を試みた。具体的には、昨年度に実施した研究を継続して、光エネルギーアクセプターを末端に結合したヘリックスペプチドを用いて、金基板上に自己組織化単分子膜(self-assembled monolayer: SAM)を調製し、光励起による光電流発生について検討を行った。 光応答を示す分子としてN末端にジスルフィド基、C末端にテトラフェニルポルフィリンを結合した、L-アラニン (L-alanine: Ala)と2-アミノイソ酪酸(Aib)の交互配列16量体ヘリックスペプチド:SA16TPPと、電子受容能に優れたフラーレンをC末端に結合したヘリックスペプチド:SA16C60を設計し合成した。 ポルフィリンのみのSAMでは、ポルフィリンの表面密度が増大するほどアノード方向の光電流が支配的になり、吸収した光子に対する量子収率も増大した。マーカス理論を応用したモデルを適用することにより、光電流の電位依存性を理論的に解析した。ポルフィリンの密度が大きくなるほど、熱失活過程や再配向エネルギーが減少していることが分かった。これを基に、約4μAの光電流に対して暗電流が数十nAしか流れないフォトダイオードを作成した。 また、ポルフィリンからフラーレンへと電荷分離が形成され、高効率に光電流が発生することを期待して、ポルフィリンとフラーレンの混合SAMを調製した。混合SAMでは、ポルフィリンを励起したにも関わらずカソード電流が-300 mVから100 mVの広い範囲で発生し、フラーレンを介した電子移動が支配的に起こっていることが分かった。一方で、溶液中の電子アクセプターとして酸素を利用したため、光電流発生を伴わない熱失活過程が増大してしまい、全体の量子収率は減少した。
|