本研究の目的は、地球科学的高精度分析手法による胎土分析を活用して、先史社会における土器を中心とする物流ネットワークの実態を踏まえた重層的な地域構造を解明することである。平成26年度は、前年度に収集した試料の分析を実施した。 1)弥生時代の粘土採掘坑採取粘土および近隣遺跡出土弥生土器を比較することで、先史時代における周辺資源環境利用の実態について検討した。原材料となり得る粘土を分析したことで、土器製作時に添加される砂粒などの混和物の種類や配合率を算出し、原材料採取地点を推定した。結果として、弥生時代段階には、近隣で採取した原材料を土器製作に利用するが、採取可能な粘土の性質に応じて、混和材の配合量を調整した可能性が明らかになった。 2)古墳時代の須恵器製作工人集落出土の粘土・須恵器・土師器類および近隣遺跡出土須恵器・弥生土器などを比較し、これまで弥生土器を対象に進めてきた胎土分析手法の窯業生産物への適用可能性について検討した。1km圏内に所在する遺跡出土資料の元素分析を行ったところ、原材料採取から素地土作成および貯蔵、製作に至る一連の工程が、各遺跡で行われていることを確認した。特に、弥生土器・土師器類と須恵器を比較すると、前者は埋没環境の影響を受けて特定元素が吸着または溶脱しやすいこと、高火度還元焔焼成である須恵器は焼成条件に応じた特徴的な元素挙動があること、を明らかにした。今後、焼成実験を踏まえて、焼成諸条件に応じた元素化学組成変化および発色メカニズムの検討が必要である。 以上の成果から、特記される形態的特徴に乏しい日常的な土器であっても、考古学的研究成果に加えて、特に微量元素・希土類元素に着目した高精度元素分析を実施することで、物的特性の把握に留まらず、土器の生産・移動現象に関連する社会的側面を検討可能な素材になり得ることを実証した。
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