研究課題/領域番号 |
12J05915
|
研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
萬屋 博喜 関西学院大学, 文学部, 特別研究員(PD)
|
キーワード | ヒューム / イギリス経験論 / 因果性 / 確率 / ベイズ主義 / 必然性 / 法則性 / 懐疑論 |
研究概要 |
今年度は、18世紀のスコットランドの哲学者デイヴィッド・ヒュームの哲学の合理的再構成を主要な課題として研究を行い、その成果を口頭や論文の形で発表した。また、関東・関西圏を中心とする若手研究者と新たな研究会(「イギリス哲学・哲学史研究会」)を立ち上げ、本研究の最終課題である「確率概念を媒介した行為論」を構築するための土台を築いた。 ヒューム哲学の合理的再構成についての研究は、2013年1月に東京大学に提出した博士学位請求論文「因果と自然ヒューム因果論の構造」で、その全体的な成果をまとめた(同年5月最終受理)。本論文では、『人間本性論』や『人間知性研究』などのヒュームの哲学的著作の包括的な読解にもとづいて、(1)ヒューム哲学に向けられてきた典型的な誤解をとき、(2)彼の哲学の基本姿勢が道徳・政治・歴史を含めた広義の科学的探究のための新たな「論理」の提示にあったことを示した。第一章と第二章では、帰納法と確率に関するヒュームの議論が、広義の科学の基礎となる信頼性主義的・ベイズ主義的な主張を擁護するものだったと論じた。続く第三章と第四章では、必然性と法則性に関するヒュームの議論が、因果的必然性や自然法則をたんなる規則的なパターンへと還元する主張ではなく、日常的・科学的実践における必然性・法則性の思考の起源をあらわにするものであったことを明らかにした。そして第五章と第六章では、言語と思考に関するヒュームの議論が、人間のコミュニケーションを心の中の私秘的な領域に閉じ込めるものではなく、むしろ公共に開かれた社交・会話という実践が人間本性に根差した感情を基盤とすることを示すものだったことを論じた。以上の研究から得られた成果は、合理的に再構成されたヒューム哲学が、基本的に人間の行為・実践の観点から科学の基盤を捉え直したことを示せたことにある。 以上、本論文の独自性は、(a)ヒューム哲学を行為や実践の観点から包括的に再構成したこと、また、(b)彼のアイデアが現代の哲学的行為論や統計科学理論の新たな基礎を提供しうるものであることを示したことに現れている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的で提示した課題のうち、一年目における「ヒューム哲学の合理的再構成」を博士学位論文の執筆によって達成しただけでなく、関東・関西圏を中心とする若手研究者達と「イギリス哲学・哲学史研究会」を発足したことにより、本研究の最終目標である「確率概念を媒介した行為論」を構築するための土台を築くことに成功したため。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の二年目において、カリフォルニア大学ロサンゼルス校認知システム研究室での研究を予定していたが、受入教官および研究環境の条件などを考慮した結果、オックスフォード大学哲学科で研究を行うことにした。なお、(1)行為の責任に関する現代行為論研究と(2)行為の合理性に関する統計科学理論研究の遂行方法については、特に変更はない。
|