研究課題/領域番号 |
12J05940
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森山 幸祐 九州大学, 大学院工学研究院, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ハイドロゲル / 西洋わさび由来ペルオキシダーゼ / フェノール誘導体 / ポリエチレングリコール / 細胞包括 |
研究概要 |
本年度は、従来法に変わる新たなハイドロゲル作製法を提案し、その有意性を評価した。本研究では、高分子間の架橋反応として、フェノール類のカップリング反応を触媒する西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(HRP)を利用している。一般的にHRPの活性化に必要な過酸化水素(H_2O_2)は水溶液として外部から添加されてきたが、このような手法では、系中において一時的そして局所的にH_2O_2が高濃度になるため、HRP自身が失活し、得られるゲルの架橋密度が低下することが報告されている。さらにゲル内部に細胞やタンパク質といった生理活性因子を包括する際、それらに対する悪影響も懸念される。本研究では系中においてHRPの活性化に必要なH_2O_2 が徐々に発生するシステムを構築することで上記の問題点を克服した。今回提案するゲル作製法は、チオール基が修飾された高分子、HRP、そして小分子フェノール誘導体の3成分を混合するだけで、外部からH_2O_<2 を供給することなくハイドロゲルを作製するというものである。本ゲル化システムはチオールの自己酸化反応をトリガーとするものである。自己酸化反応の際に発生するH_2O_<2 によってHRPが活性化し、フェノール誘導体からフェノキシラジカルを生成する。次いで、フェノキシラジカルからチオールヘラジカル転移反応が進行し、最終的にジスルフィド結合を形成することで高分子水溶液がゲル化する。ジスルフィド結合形成の際にもH_2O_2が発生するため、自発的にHRP触媒反応が進行するというものである。本研究では末端にチオール基が修飾された4分岐型のポリエチレングリコール(4-arm PEG-SH)をゲル化剤として選択した。3成分の濃度を変化させることで、ある程度ゲルの物理特性をコントロールすることが可能であった。さらにゲル内への細胞包括を試みたところ、高い生存率を維持したまま細胞を包括することが可能であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、安全性の高い組織工学用足場材料の創製を目指している。本年度は、従来法に変わる安全性の高い新規ハイドロゲル作製法を開発することに成功しており、おおむね期待した結果が得られている。しかしながら、本年度はゲルの物性等、主に基礎評価を行ってきたため、今後は組織工学分野への応用を重視した検討を行っていく予定である。具体的には、細胞接着ペプチドや成長因子等の生理活性因子を固定化したハイドロゲルの創製を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今回提案したゲル作製法は、チオール基間のカップリング反応を利用したものであることから、チオール基を含むアミノ酸であるシステインを含むペプチドやタンパク質を高分子ネットワークに組み込むことが可能であると考えられる。そこで、今後はシステインを含む細胞接着ペプチドや増殖因子等の生理活性因子をハイドロゲルに固定化することで機能性足場材料を作製し、細胞培養を行っていく予定である。
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