本研究では、細胞や生体分子に対し温和な条件下で進行する酵素の触媒反応を利用することで、医療分野での利用が可能なハイドロゲルの作製を試みてきた。高分子間の架橋反応を触媒する酵素としては過酸化水素(H2O2)により活性化し、フェノール類の酸化カップリング反応を触媒する西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(HRP)を選択している。昨年度は本触媒反応を利用したこれまでにない新たなゲル作製法を提案し、その手法を利用した酸化還元応答型ポリエチレングリコール(PEG)ゲルの作製を試みた。そこで本年度は作製したPEGゲルの機能化を試みた。具体的にはタンパク質の一種であるゼラチンを選択し、PEGと共架橋させることで、細胞培養基材として利用可能なゲルの作製を試みた。まず初めに作製したゲル上に線維芽細胞を播種し、細胞接着率を評価した。播種4時間後、ゼラチンを含まないPEGゲル上では細胞の接着は観察されなかったが、ハイブリッドゲル上では細胞の接着並びに伸展が観察され、その形態及び細胞接着率はポジティブコントロールとして用いたゼラチンコートディッシュと同程度であった。これはPEGネットワーク内にゼラチンが組み込まれたことを示す結果であり、PEGゲルを機能化することに成功したといえる。続いて、細胞の増殖挙動を評価したところ、ハイブリッドゲル上での細胞の形態並びに増殖挙動は、ゼラチンコートディッシュと同等であったことから、作製したゲルは優れた細胞接着性並びに増殖性を持ち、細胞培養基材として利用可能な材料であることが示唆された。またゲル上で、コンフルエント状態になるまで細胞を培養した後、還元剤によってゲルを溶解した結果、高い生存率を維持したままシート状の細胞塊を得ることが可能であった。以上の結果から作製したハイブリッドゲルは、細胞からなる組織体の作製に利用可能な材料であることが示唆された。
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