研究課題/領域番号 |
12J05943
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
植木 亮介 九州大学, 稲盛フロンティア研究センター, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 神経疾患 / 薬剤スクリーニング / 核磁気共鳴 / 多重共鳴NMR |
研究概要 |
本年度は、本研究の目的である『生体内での神経伝達物質代謝解析』を実現するため、これまでに我々が開発した核磁気共鳴プローブ分子を用いた生体試料中での神経伝達物質代謝解析を進めた。具体的には下記に報告する通り、神経伝達物質代謝解析および、神経疾患治療薬のスクリーニングを実施した。本年度得られた成果は新規神経疾患治療薬の開発に貢献することが期待される。 (1)生体試料中での神経伝達物質代謝解析 観測する代謝反応としては神経伝達物質の一種であるドーパミンが、神経疾患関連酵素であるモノアミン酸化酵素(MAO)によって酸化を受ける反応である。本反応は予てよりパーキンソン病、うつ病などの疾患との関連が指摘されており、注目を集めている反応である。まず、一般的な核磁気共鳴技術(1H NMR解析)でのドーパミン代謝反応のマウス組織破砕液中での検出を試みた。この場合生体成分からのバックグラウンドシグナルによって、ドーパミン代謝反応の検出を行うのは不可能であった。一方で、本核磁気共鳴プローブを用い、多重共鳴測定を行うことで前述のようなバックグラウンドシグナルは完全に抑制され、標的とするドーパミン代謝反応の高選択的な検出に成功した。本結果は、本核磁気共鳴プローブ分子の生体内反応解析への応用可能性を強く支持するものである。 (2)生体試料中での神経疾患治療薬スクリーニング 上記のように生体試料での神経伝達物質代謝解析が実現可能となったため、生体試料中での神経疾患治療薬のスクリーニングを試みた。本研究ではモデル系として既知のドーパミン代謝阻害剤であるクロルギリン誘導体のマウス組織破砕液中での薬効を評価した。その結果、既知の阻害剤を上回る高い阻害能を示すクロルギリン誘導体の探索に成功した。この結果から本核磁気共鳴プローブ分子を用いることで、生体試料中での神経疾患治療薬のスクリーニング・薬効評価を行うことが可能であると実証された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初の研究計画通り、神経伝達物質の代謝解析にむけた核磁気共鳴プローブ分子の開発を進めた。具体的には開発された核磁気共鳴プローブ分子が生体試料中での神経伝達物質の代謝解析へと応用できることを見いだし、新規神経疾患治療薬のスクリーニング系を確立することに成功した。上記の成果はアメリカ化学会のトップジャーナルである J,Am.Chem,Soc.誌に投稿され、平成24年7月に掲載された。今後、本年度で得られた知見により生体での神経伝達物質の代謝解析が実現されることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、本核磁気共鳴プローブ分子を用いた生体内での代謝反応解析を試みる予定である。その後、これまでに得られた知見を元に生体内での神経伝達物質の代謝を調節可能な神経疾患治療薬のスクリーニング系および薬剤評価系の構築を試みる。 克服すべき問題点として、生体内の標的部位へのプローブ分子の送達が考えられる。これまでの予備実験の結果において、機能性生体高分子の一種である核酸アプタマーが優れた標的分子認識能を示している。今後、核酸アプタマーを用いたプローブ分子送達のためのプラットフォームの構築を行う予定である。
|