本年度の最大の成果は「河井弥八日記」を調査したことである。河井弥八は貴族院書記官を長年勤めた人物であり、本研究で着目している徳川家達と深い関係を有していた。掛川市大東図書館に所蔵されている「河井弥八日記」を閲覧・調査したことによって、明治末~大正期における貴族院事務局や議長・家達の詳細な動向を検討することが可能となった。次に、社団法人尚友倶楽部において「小林次郎関係文書」を閲覧・調査したことである。小林次郎が遺した史料からも当該期の貴族院の状況に関する史料を多数発見することができた。また、国立国会図書館憲政資料室での調査も行い、必要に応じて複写した。さらに、国立国会図書館デジタルコレクションを利用して、昭和期に徳川家達が発表した文章を入手した。以上が本年度の史料調査状況である。 河井弥八の日記を詳細に分析することによって、これまで検討してきた内容の裏付け・補強が可能となり、議長・徳川家達や貴族院事務局の細かい動向を把握することができた。その成果の一部として、「第一次世界大戦期の貴族院 ―「貴族院の本分」と「国民」とのはざまで―」を発表した(2014年8月)。 9月以降は博士論文執筆に専念し、1月に博士論文「貴族院議長・徳川家達と明治立憲制の展開」を提出し、学位が授与されることになった。博士論文において、徳川家達は、貴族院議長の職務を通して大正デモクラシー体制(対内的には政党内閣制、対外的にはワシントン体制)を支持し、体現した人物であったと評価でき、かかる政治的活動を行う貴族院議長は、明治憲法体制下における立法・行政間の調整弁であったことを明らかにした。
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