DNA損傷欠損DT40細胞を用いた抗がん剤の作用機序解明のために、米国国立衛生研究所Dr. Menghang Xiaと共同研究を行った。抗がん剤は細胞のDNAに傷を入れることで細胞死を誘導する。野生型細胞は遣伝子に入った傷、すなわちDNA損傷を修復することができる。しかし、がん細胞は遺伝子に変異が入っているため、DNA損傷を修復することができない場合が多い。このため、抗がん剤に暴露された場合において、がん細胞は野生型細胞に比べて死にやすい。我々は、野生型DT40細胞とDNA損傷修復遺伝子が欠損したDT40細胞を薬剤に暴露し、両者の生存率を比較することで、薬剤のDNA毒性を評価した。以下に具体的な内容と成果を記す。 我々は、昨年度に米国NIHの所有する薬剤ライブラリーの一次スクリーニングを実施した。一次スクリーニングでは野生型細胞と二種類のDNA損傷修復欠損細胞を使用した。本年度は昨年得られたデータを統計的に解析し、野生型細胞と比較してDNA損傷修復欠損細胞の生存率を優位に低下させる薬剤を選び出した。さらに得られた結果が正しいかを検証するために一次スクリーニングと同様の条件で二次スクリーニングを行った。二次スクリーニングの結果、一次スクリーニングで選ばれた薬剤のうち約半数で再現性が確認できた。これらの薬剤の中にはDNA毒性が既知のものだけでなく、過去にそのDNA毒性について報告がないものもいくつか含まれていた。また、これまでのスクリーニングで使用した二種類のDNA損傷修復欠損細胞以外に新たに六種類のDNA損傷修復欠損細胞でも同様の実験を行った。その結果、同じ薬剤に対して、すべてのDNA損傷修復欠損細胞が生存率の低下を示すわけではないことが明らかになった。このことから、薬剤が誘導したDNA損傷の種類を予測することが可能である。
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