研究課題/領域番号 |
12J05992
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安川 知宏 東京大学, 大学院・理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | タンデム反応 / 不均一系触媒 / キラルナノ粒子 / キラルジエン / ロジウムナノクラスター |
研究概要 |
筆者の所属する研究室が独自に開発した高分子カルセランド(PD法を用いて、ポリスチレンを基本骨格とした高分子及び活性炭を混合した担体にロジウムナノ粒子を固定化した触媒を開発し、アリールボロン酸類のエノン類への不斉1,4付加反応へ適用した。BINAPを不斉配位子として添加した所、顕著なロジウムの漏出が観測されたが、不斉ジエン配位子を用いる事で目的物が高収率、高エナンチオ選択性で得られ、金属漏出を検出限界以下まで抑制することに成功し、更に二次金属として銀を添加した二元金属ナノ粒子触媒(PI/CBRh/Ag)を用いる事で触媒活性を向上させられる事を見出した。本触媒系は他の様々な種類の基質においても、金属漏出することなく、高収率、高エナンチオ選択性で目的物を与えた。 銀の添加による活性向上の理由を探るべく、本触媒の電子顕微鏡による観察およびエネルギー分散X線分析装置による分析を行った所、ロジウムと銀は合金ナノ粒子を形成しており、銀の添加によりナノ粒子の凝集が抑制されていることがわかり、その結果として活性が向上したと考えられる。またこれはキラルナノ粒子触媒によって不斉炭素-炭素結合形成反応が90%eeを超える高い選択性で進行した初めての例である。 本触媒はろ過のみの簡便な操作により回収が可能であり、また収率及びエナンチオ選択性を損なう事なく8回の再使用が可能であった。その後の使用において収率の低下がみられたが、触媒を無溶媒条件下で加熱処理することにより活性が復活し、再び高活性を維持したまま複数回の再使用ができた。更に、アルコールの酸素酸化反応に有効な触媒であるPIAu触媒とPI/CBRh/Agを順次加えることで、アリルアルコール類とアリールボロン酸類を原料とする、酸素酸化反応と不斉1,4付加反応の二段階のワンポット反応を、高収率及び高工ナンチオ選択性で達成できた。本研究はキラルナノ粒子触媒を用いた不斉合成の開発において、重要な知見になり得ると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
不斉反応に用いる金属触媒を固定化する手法として、不斉配位子を担体中に固定化し、金属錯体自体を担持する方法がよく知られているが、予想外にも固定化ナノ粒子触媒存在下に不斉配位子を外部添加する事で生成するキラルナノ粒子が不斉炭素-炭素結合生成反応を触媒することを発見し、更にキラルジエン配位子やRh/Ag合金ナノ粒子を使用し、幅広い種類の基質において高収率かつ高エナンチオ選択性で目的物を得ることに成功した。本触媒は活性を損なうことなく複数回の回収、再利用が可能であるなど、耐久性の高い触媒である事も確認された。また本触媒を用いる事で、当初の目的であった金ナノ粒子触媒による酸素酸化反応との反応の集積化も実現出来た。
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今後の研究の推進方策 |
今年度開発したロジウムキラルナノ粒子触媒について、まだ詳細が不明であった、粒子サイズ効果や二元金属の効果の解明、更に触媒活性種の同定などを、X線吸収微細構造解析などの触媒構造の分析や、異なるサイズや金属分布比を持つ様々な触媒を用いた対照実験などにより、行っていきたい。これにより得られた知見から、更に触媒的不斉炭素-炭素結合生成反応を開発し、複数の触媒を用いるより複雑な分子骨格を構築できる連続多段階反応への応用を行う。複数の触媒を用いた反応においては、異なる触媒同士の相互作用による失活が予想されるが、これを抑制する為ある程度の距離を保ってそれぞれの触媒を担持するなど、触媒の緻密な構造設計をしていく。また、複数の活性点を同一担体に固定化することによる反応性の向上の有無などの考察も行う。一方、実際に本触媒系を産業へ応用する足掛かりとすべく、フローシステムを用いた反応集積化も検討していきたい。
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