発光体の発光現象は、発光体の特性のみで決定されるものではなく、発光体を取り巻く環境によっても左右される。特に、発光体が光共振器の内部におかれた場合、その発光過程は著しく変化することが知られている。発光体と光共振器の融合した系における発光現象を研究する研究分野は共振器量子電磁力学(Cavity quantum electrodynamics : Cavity-QED)と呼ばれている。発光体と光共振器の融合した系のなかで単一共振器モードと単一の二準位電子系でモデル化される発光体の組み合わせはもっとも単純なものであり、Cavity-QEDは単一共振器モード、単一二準位電子結合系における非常に興味深い物理現象を予言する。これらの現象は物理的に興味深いのみならず、高効率単一光子光源、無閾値レーザなどのまったく新しい光デバイスの応用が期待されている。 近年、半導体微細加工技術が著しく発達し、固体の発光体と共振器を用いた光領域におけるCavity-QEDの研究が盛んに進められている。固体中においてもCavity-QEDの予言する発光現象の変調が多数報告されている。しかし、申請者の研究開始時点においては、発光体と共振器の結合状態を変化させることは難しく、それぞれの特性や位置関係などで決まる静的な結合状態を観察しているに過ぎず、固体Cavity-QEDを現実的な応用へと高めるために、Cavity-QEDに基づく物理現象を制御する方法が必要であった。 申請者は、キャリアプラズマ効果による共振器状態の動的な制御手法を導入し、発光現象そのものを制御することに成功した。動的制御により初期状態の発光が抑制される状態から発光が促進される状態へと変化させた。この変化により、発光レートが一時的に増大し、タイミングを制御した単一光子の取り出しが可能であることが明らかになった。単一光子レベルでの発光制御の柔軟な制御や、量子状態の制御による、量子情報処理デバイスなどの応用が期待できる。
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