研究概要 |
今年度は、ナノサイズ化された遷移金属において発現するd電子軌道由来の量子伝導現象として、以下の2つの研究を行った。 1.強磁性ナノ接点における近藤効果 バルクではバンドフェロで説明される強磁性金属(Fe,Co,Ni)において、単原子接点では近藤効果が出現するという報告(Nature 458,1150(2009)がある。一般に強磁性と近藤効果は相容れない性質と考えられていたため、この先行研究は非常に興味深い。この現象をサイズ効果という観点から研究するため、ブレークジャンクション法を用いて、Niを単原子接点から直径約2nm程度のナノ接点域まで連続的に変化させながら、T~5Kにおいて微分伝導度測定を行った。その結果、近藤効果に由来すると思われるゼロバイアス異常が測定した全領域で観測された。また、直径約1nmのNiナノ接点におけるゼロバイアス異常の温度変化を調べた結果、近藤効果を強く示唆する-1nT依存性が観測された。これらの結果は、強磁性秩序と近藤効果がナノ接点内で共存するとして説明可能である。(Physica Review B86,064404(2012)に公表済み) 2.常磁性遷移金属のナノサイズ化により出現する強磁性転移 Au,Pd,Snなど多くの非磁性金属が、ナノ微粒子化により強磁性転移することが磁化測定から明らかになっている。そこで、Pdワイヤをブレークジャンクション法を用いて、その接点サイズをバルクから原子サイズまで連続的に変化させながら磁気抵抗測定を行った。その結果、接点直径が大きな領域では磁気抵抗効果は見られないが、直径30nm以下においてヒステリシスを伴う磁気抵抗効果が観測された。この結果は、電気伝導度測定によって非磁性一強磁性転移の検出が可能であるという新しい知見を提示するものである。(Applied Physics Letter 101,123114(2012)に公表済み) 以上の結果は、熱振動による金属ナノ接点の破壊を、低温実験装置の工夫によって解決したことで得られた。現在は、分子液体中で金属電極間に単分子架橋を可能とする低温実験装置を作製し、これを用いて実験中である。
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