研究実績の概要 |
本究員はこれまで銅触媒を用いたC-Hアミノ化反応を検討してきたが、その過程においてイナミドを温和な条件で合成する手法を見出しており、イナミドを用いた新規複素環骨格構築反応の開発研究を実施している。本研究員は昨年度、ドイツのHeidelberg大学に渡航し、金触媒化学をリードするA.S.K. Hashmi教授の下で研究を行った。その期間中にHashmi教授らにより見出されたgem-gold錯体が、炭素環骨格のみならず複素環骨格の効率的構築反応の触媒としても使用できることを明らかとしている。帰国後更なる検討を重ねることで、今年度になって金触媒によるN-プロパルギルイナミドの連続環化反応を用いた縮環ピロール合成法を開発するに至った。本反応は、イナミドのβ位炭素上において求核反応が進行している点に加え、中間体として金ビニリデンを経由することで、通常不活性なsp^3炭素上のC-H結合も反応に用いられる点で魅力的であると考えられる。 また本特別研究員はこれまでの研究にて得られたアルキンの反応性に関する知見を踏まえ、アルキンを用いた新規反応の開発に取り組んだ。オルト位にアルキニル基を有するN, N-二置換アニリンの環化反応は、インドールの形成によりアニリン窒素上の置換基がインドールの3位に転位することが知られている。本研究員は、転位する置換基としてプロパルギル基を採用すれば高い反応性を有するアレンが生成し、その後さらに環化反応が進行するのではないかと期待した。検討の結果、分子内に求核部位を有するN-プロパルギルアニリンに対し金触媒を作用させると、アレンの生成を経由する連続環化反応が期待通りに進行し、目的の縮環インドリンが高収率で得られた。本反応は、三環が同時構築されることで、一次元的な部分構造(アルキン)から一挙に三次構造を構築できる点で興味深いと考えられる。
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