1.ケイパビリティ・アプローチの資源配分理論に関する研究。本研究では、ケイパビリティ・アプローチに基づく2人経済モデルを構築し、2つの、ケイパビリティを平等化する財の分配ルール(2人のケイパビリティの最小格差による分配ルールおよび2人のケイパビリティ集合の最大共通部分による分配ルール)を提唱し、各々が衡平性の弱公理を満たすことを示した。この帰結は、ケイパビリティの平等論が、規範理論の文脈でしばしば指摘される“hard cases”(ニーズの異なる人々(例えば、障碍者と健常者)の差異を考慮できるか否か)の問題を考慮でき得る枠組みであると解釈できる。また、この帰結が導かれた仮定の下で、各々の分配ルールに基づいた財の最適配分を計算し、その最適配分の下でのケイパビリティ集合を、集合の包含関係による尺度に基づき、2人の個人が分配前後でどのくらい自由なのかについて比較を行った。 2.労働節約的技術変化と個人間所得分配の不平等の関係についての理論的研究。本研究では、正規・非正規雇用および失業に焦点を当てた剰余アプローチによる理論枠組みを構築し、労働節約的技術変化がローレンツ曲線で測られた経済の不平等度にどのような影響を与えるのかを分析した。分析の結果として次の事が明らかになった。労働節約的技術変化は、一方では労働部門全体にいわゆる技術的失業をもたらし、他方では正規・非正規雇用の賃金格差を拡大させる。とくに、賃金格差の拡大は、非正規雇用の賃金は技術変化前後で変化がないのに対し、正規雇用の賃金は技術変化後でさらに上昇することを通じてもたらされる。その結果として、労働節約的な技術変化が個人間所得分配に与える純粋な効果は社会の2極化を促進する可能性が明らかになった。
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