研究概要 |
本研究では,日本列島旧石器時代における冷温帯や温帯の森林的環境や,寒帯の草原的環境に適応した人類の石器使用や資源利用技術の特徴を明らかにすることを目的として,本州東半の後期旧石器時代前半期や縄文時代草創期の石器群,そして最終氷期最盛期の北海道の石器群を対象に使用痕分析を実施する.また石器使用痕分析の成果とそれぞれの地域・時期の古環境との比較を通して,人類の適応戦略や資源利用技術の地域的な多様性を考察する. 以上の研究の枠組みに基づいて,本年度では,1)北海道の最終氷期最盛期に位置づけられる石器群を対象とした石器使用痕分析,および,2)北海道の古環境情報の集成と整理,を実施した. 1)について,本年度では北海道の最終氷期最盛期に位置づけられる旧石器時代資料の中でも,帯広市川西C遺跡から出土した石刃石器群を分析対象として抽出した.石器使用痕分析の結果は,掻器や削器,彫器などの各種石器が,主に乾燥皮や生皮,肉などの軟らかい物の加工に用いられ,骨や角などの硬質な動物性の素材の加工に用いられる機会が極めて少なかったことを示している. 2)北海道の各地から得られている,湿地や湖沼堆積物などの花粉化石を含むボーリングコアの分析結果を網羅的に集成し,それぞれの地域の植物相の整理を実施した.各地の花粉化石の分析結果は,LGMの北海道南西部にグイマツを主とする亜寒帯針葉樹林,北海道北東部にグイマツ・ハイマツを主とする疎林と草原が広がっていた可能性を示している. 以上の成果は,寒帯の草原的な環境に適応した人類の石器使用や資源利用技術の特徴を考察する上で,重要な基礎的データになる.
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今後の研究の推進方策 |
これまで北海道の最終氷期最盛期の石器群として,(1)細石刃石器群,(2)小形剥片石器群,(3)石刃石器群が確認されている.本年度では,石刃石器群に対して使用痕分析を実施したものの,細石刃石器群,小形剥片石器群に対して分析を実施することができなかった.最終氷期最盛期前後に位置づけられるこれらの石器群を対象とした使用痕分析は,北海道の最終氷期最盛期の環境に適応した人類の適応戦略や資源利用技術を明らかにする上で重要な課題である.本研究課題を遂行するため,次年度では,北海道の細石刃石器群および小形剥片石器群を対象とした使用痕分析を実施する予定である.
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