研究課題
多くの神経変性疾患では異常リン酸化タンパク質の蓄積が観察されている。このリン酸化を引き起こすプロテインキナーゼは数多く存在しており、多くの研究はリン酸化側からなされてきたが、異常リン酸化機構を証明できていない。本研究では脱リン酸化に着目し、特に脱リン酸化を制御する異性化酵素Pin1がTauの異常リン酸化状態を抑制するかを調べた。前年度までにアルツハイマー病患者脳でTauを初期段階でリン酸化するCdk5に着眼し、TauのCdk5によるリン酸化部位の同定、リン酸化TauとPin1の結合を確認した。また前頭側頭葉型認知症(FTDP-17)型TauにおいてはPin1との結合の低下を明らかにした。今年度はその研究を継続した。始めに、Cdk5によるTauのリン酸化部位でのPin1の結合力を調べる為、Biacore装置を用いてKD値1.25×10-4Mを算出した。この結果は先行研究で報告されているTauのリン酸化Thr231、212とPin1の結合力と同等であり、これよりTauとPin1の結合は、報告されている部位以外のCdk5リン酸化部位でも起こる事を初めて明らかにした。次にCdk5によりリン酸化されたTauにPin1が結合し脱リン酸化の促進を起こすかを調べた。培養細胞を用いPin1の阻害剤を処理する事でTauのリン酸化状態の変化を検討した。その結果、Cdk5によるリン酸化TauはPin1存在下で脱リン酸化が促進する事が明らかになった。また、Tauのリン酸化抗体を用いることで、アルツハイマー病患者脳で高度にリン酸化されるSer202,Thr205部位の2カ所で特に脱リン酸化されやすい事も明らかにした。次にTauの変異が原因であるFTDP-17でもPin1の量に変化があるかをFTDP-17患者脳、モデルマウス脳を用いて検討したところ、コントロールに比べPin1の量に変化はなかった。これよりFTDP-17はPin1の量ではなく、Tauとの結合の減少がTauの高リン酸化、凝集、細胞死を引き起こす事で発症し易くなるのではないかと考えた。これらの結果はJounral of Biological chemistryに2013年3月にアクセプトされ、第10回プロテインホスファターゼ国際カンファレンスにて招待講演で発表し、高評価を得た。
2: おおむね順調に進展している
申請書に記入した予定を達成し、論文を投稿できた事よりそのように言える。
現在、Phos-tagSDS-PAGEを用いた新しいTauのリン酸化解析法も申請者が確立し、培養細胞、神経細胞内でのTauのリン酸化状態の解析は成功している。今後アルツハイマー病や皮質基底核変性症などのタウオパチー患者脳を用いての解析を進めて行く予定である。人脳サンプルでもPhos-tagSDS-PAGEで解析可能な試料調整が重要であることより、調整方法の確立が第一目標となってくる。これら一部の結果はTau国際シンポジウムで口頭発表しており、現在論文投稿準備中である。
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THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY
巻: 288 ページ: 7968-7977
10.1074/jbc.M112.433326