過酸化水素は生体内においてシグナル伝達因子として働く重要な分子であり、これに対する高感度な検出系を開発することは生物学において重要な課題である。過酸化水素の生体内における産生は、短時間かつ局所的であり、細胞内においていつどこで過酸化水素が産生されたかを知る必要がある。そこで私は、有機小分子に基づく過酸化水素に対する蛍光プローブとタグタンパク質技術を融合することで高い時空間分解能と高い感度を両立する検出系を開発できるものと考え、研究を行っている。咋年度において、有機小分子プローブであるNBzF-BGの合成およびin vitroにおける評価を完了し、今年度は生細胞イメージングへの応用を行った。そのためにタグタンパク質であるSNAP-tagを細胞胞へターゲッティングできるコンストラクトをpDisplayベクターを利用して作製した。細胞膜にタグをターゲッティングする理由としては、生体において過酸化水素の産生を担う重要な酵素であるNADPH oxidase (Nox)が、細胞膜において活性化され、スーパーオキサイドおよび過酸化水素を産生ため、そのような過酸化水素を検出するためには、プローブを細胞膜へと局在させることが適切だと考えられるからである。次に、HEK293T細胞およびRAW264.7細胞において外部より過酸化水素を加えることで本検出系が働くことを確認した。そこで生理的な過酸化水素産生としてRAW264.7細胞による貪食過程における過酸化水素イメージングを行った。食胞膜特異的な蛍光シグナル上昇が観察され、生理的過酸化水素の部位特異的イメージングに成功した。有機小分子蛍光プローブとタグタンパク質を用いて部位特異的な過酸化水素産生を可視化したのは、これが世界初の例である。
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