過酸化水素は生体内においてシグナル伝達因子として働く重要な分子であり、これに対する高感度な検出系を開発することは生物学において重要な課題である。過酸化水素の生体内における産生は、短時間かつ局所的であり、細胞内においていつどこで過酸化水素が産生されたかを知る必要がある。そこで私は、有機小分子に基づく過酸化水素に対する蛍光プローブとタグタンパク質技術を融合することで高い時空間分解能と高い感度を両立する検出系を開発できるものと考え、研究を行った。 私はこれまでに、SNAP-tagをラベル化可能な過酸化水素検出蛍光プローブであるNBzF-BGの開発に成功し、RAW264.7マクロファージから貪食時に食胞内へと産生される生理的な過酸化水素産生の可視化を行った。このファゴソーム膜の蛍光シグナル上昇はファゴソーム毎に様々で、シグナル上昇の様子は一様ではない様子が観察された。このように、タンパク質タグと小分子蛍光プローブを組み合わせることで、プローブの局在を制御し、部位特異的な過酸化水素の生理的な産生の様子を高い空間分解能で観察することに成功した。 三年目においては、本成果を論文へとまとめ、学術誌への発表を行った。本論文は化学専門誌Analytical Chemistryに採択された。私は本研究の目標である部位特異的な過酸化水素可視化系の開発を達成した後、Boston Collegeへと移り、質量分析に基づいてシステインの酸化修飾を定量的に調べる手法の開発に着手した。光照射によって活性化されるシステイン反応性プローブを開発し、生細胞において高い時間分解能でのシステインのラベル化を達成し、A431細胞においてEGF刺激で産生される活性酸素により酸化修飾を受けるシステインを網羅的に明らかにした。
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