平成26年度、申請者は平成25年度までの研究で得られた知見をもとに、物質中でスピン流が流れた場合にスピン軌道相互作用によって生じるスピンホールホール効果に超伝導状態がどのような影響を与えるかについて調べた。これまでの研究では超伝導体としてニオブを用いてきたが、平成25年度よりより超伝導転移温度の高い窒化ニオブの高い成膜技術を有している名古屋大学の藤巻朗教授の研究室と共同研究の機会を得たため、より実験が容易である窒化ニオブを用いて強磁性体-非磁性体-超伝導体のスピンバルブデバイスを作製し、スピン吸収法を用いて窒化ニオブにスピン注入を試みた。窒化ニオブ中に注入されたスピン流は、窒化ニオブの大きなスピン軌道相互作用により誘起された(逆)スピンホール効果により、電流へと変換される。この窒化ニオブ中で起こるスピンホール効果が、窒化ニオブが常伝導状態にある場合と超伝導状態にある場合でどのように変化するかについて研究を行った。 常伝導状態では、窒化ニオブは逆スピンホール効果を示し、その信号の大きさはこれまでニオブで報告されたものと同程度となった。次に、デバイスを超伝導転移温度よりも充分低温まで冷却し、同様に逆スピンホール効果の測定を行った。その結果、スピン流を生成するために強磁性体-非磁性体間に流すスピン注入電流(I)を小さくしていくに連れ、逆スピンホール信号が増大し、I = 0.01 microAでは常伝導状態の逆スピンホール信号に比べて2000倍以上信号が増大することを発見した。測定した信号は測定中に印加する外部磁場とスピン流生成に用いる強磁性体の磁化との角度依存性から、逆スピンホール効果に由来することが示唆される。上記の結果は微小なスピン流から大きな電圧を取り出すことが出来るため、量子演算回路やスピントロニクス素子への応用が期待される。
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