研究実績の概要 |
本研究は、キラルなRh(II)錯体を用いたカルボニルイリドの逆電子要請型不斉1,3-双極付加環化反応を機軸とした生物活性含酸素多環式天然物およびその類縁体の触媒的不斉全合成を目的とし、標的化合物として特に強力な抗がん活性を示す(-)-エングレリンAを設定した。 これまでに、(-)-エングレリンAの触媒的不斉全合成を達成したため、続いて天然物からの誘導が困難な(-)-エングレリンA誘導体の合成に取り組んだ。(-)-エングレリンAのもつトランス縮環した五員環部はその構造を強固に固定していることが予想され、活性発現に重要な役割を果たしていると考えられている部位の一つである桂皮酸エステルの配座を制限していると考えられる。そこで今回、五員環部を六員環とすることで桂皮酸エステルの配座の自由度が増し、より強力な活性発現が期待できると考え誘導体の合成に着手した。 これまでの合成での共通の中間体となるエノンに対し、これまでより一炭素増炭したアルキルリチウムを作用させアリルアルコールとし、続いてtert-ブチル基の還元とトシル化、PCCを用いた酸化的転位反応によりエノンとした。続く接触水素化とアセタールの除去によりジケトンとした後、トルエン溶媒中ナトリウムメトキシドを塩基として用いるアルドール反応により六員環部を構築した。Luche還元によりアリルアルコールへと導いた後、Pd/Cを用い、80気圧の水素雰囲気下で接触水素化を行うことでC5位、C6位が望みとする立体である化合物を84%の収率で得た。水酸基をTES基で保護した後、ルテニウム酸化を行うことでエトキシ基をアセトキシ基へと変換し、続いてLiBEt3Hを作用させアセチル基の除去とトシラートの還元を一挙に行った。その後、C10位と続くC7位水酸基のアシル化を経て六員環構造を持つ(-)-エングレリンA誘導体の合成を達成した。
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