研究課題
ヒトを含めた多くの動物において、他者存在下で行動の頻度を高める現象がみられる。社会的促進として知られる(Zajonc 1965, Wilson 1975)が、神経メカニズムは殆ど調べられていない。研究代表者らはニワトリ雛(ヒヨコ)を用い、他者との採餌局面で運動量が増える「社会的過剰労働」を発見した(Ogura & Matsushima 2011)。研究代表者は他者がdrive(動因)を増大させることで優勢な行動が促進されるとする仮説(Zajonc 1965)に基づき、中脳腹側被蓋野から内側(腹側)線条体/側坐核へのドーパミン性神経投射が社会的過剰労働に深く関与していると考えた。そこで内側線条体の(1)電気破壊ないしは(2)ドーパミン枯渇を行い、同伴個体と採餌する際の運動量が低下するかを調べた。(1)電気破壊群の運動量は偽処置(sham)群に比べ、同伴個体の有無にかかわらず一貫して低かった。同伴個体導入時の運動量増大は偽処置群同様に生じた。内側線条体/側坐核は採餌に関する運動量の決定に与る一方、社会的過剰労働に対する寄与は間接的であることが示唆された。(2)ドーパミン枯渇群の行動指標はいずれも電気破壊群と偽処置群との中間を示し、偽処置群との間に有意差は認められなかった。内側線条体/側坐核へのドーパミン性神経伝達が社会的過剰労働に及ぼす影響はごく弱いと考えられる。加えて(3)nucleus taeniae of the amygdala(TnA)の電気破壊を行った。TnAは内側線条体への神経投射を有し、かつ社会行動への関与が示唆される(Chang et al. 1999)。しかしいずれの行動指標においても、偽処置群との有意差は認められなかった。以上の結果はZajonc(1965)の仮説に反し、社会的促進に他の認知メカニズムが関わることを示唆する。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度得られた結果は、社会的過剰労働の神経機構が運動量決定の系と分離していることを強く示唆するものである。今後の研究により、社会的過剰労働に特異的な神経回路を同定する必要がある。
中脳の腹側被蓋野・黒質緻密部といったドーパミン起始核、および視覚的注意に関連する領域(nucleus rotundusなど)を視野に入れ、社会的過剰労働により直接的に寄与する脳領域・神経修飾物質を探索する予定である。具体的にはドーパミン起始核への枯渇剤投与、nucleus rotundusの電気破壊を検討している。また、内側線条体が採餌に対する運動量の決定を担うことを確認するため、電気破壊で得られた結果が神経毒(イボテン酸)の局所投与によっても再現されるかを検証する。
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計測と制御
巻: 52 ページ: 189-194
Behavioural Brain Research
巻: 233 ページ: 577-586
10.1016/j.bbr.2012.05.045.
http://www.sci.hokudai.ac.jp/~matusima/chinou3/Welcome.html