前年度に引き続き、質的調査による事例研究と基礎的研究を通して、特別支援学校・学級に通う軽度・境界域の知的障害中学生たちの多様化する自己アイデンティティの様相を明らかにすることを主要な目的としてきた。とりわけ、「知的障害特別支援学校・学級という特別な教育の場に通うこと」に対する軽度・境界域の知的障害中学生たちの主観的意味づけとその社会的文脈に着目して研究を進めてきた。 平成25年度は、特別支援学校中学部3校における4名の生徒(全て中3生、前年度から継続)、及び、2校中学校特別支援学級の卒業生5名(前年度から継続)を対象とした質的調査を行った。現役生に関しては、本人へのライフストーリー・インタビューを調査の主軸に置きつつ、教室での同級生や教員との相互行為場面の参与観察と、担任教師・保護者へのインタビューを実施した。さらには、担任教師の作成した学習指導案や実践記録などの資料を収集した。卒業生に関しては、現在の高校生活と中学校時代への意味づけに関するインタビューを実施した。また、基礎的研究として、軽度・境界域の生徒にとっての知的障害教育の場の意味と文脈を分析するための理論的視点の整理を行った。具体的には、O. ヘンスラーの「アジール」概念やE. ゴフマンの「アサイラム」概念・「状況の定義」概念について文献研究を行った。 特別支援学校・学級における質的調査の分析からは、「アジール(避難所)」「不利益を被る場」「結果オーライの場」という3つの「場の意味」の総括的カテゴリーがみちびかれた。また、被いじめ体験と「アジール(避難所)」という意味付けの密接な関係性が示唆された。在籍する特別支援学校・学級への本人たちの意味づけは、彼(女)らの親しむメディア文化や家族の状況と密接に関わっており、生徒によって濃淡はあるもののそれらの影響が少なからず見られた。
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