本年度は喜界島に断続的に約2ヶ月、琉球語の話されるその他の地域に合計3週間ほど滞在して聞き取り調査・自然談話資料の収集を行い、そこで得られたデータ及びこれまでに収集していたデータの検討・分析を行い、結果を論文等で発表した。 詳細として、まず、喜界島上嘉鉄方言の文法記述のため、上嘉鉄方言の音韻面・形態面・統語面に渡る共時的体系の記述に資するデータの収集を継続して行った。そこで得られたデータ及びこれまでのデータをもとに、上嘉鉄方言の文法の概要を報告した。特に動詞の形態論について、動詞語幹クラス、動詞語幹と接辞の境界に生じるの形態音韻論的交替、定動詞/連体動詞/副動詞の構造、派生語幹の構造について分析し、論文にまとめて学術誌で報告した。また、形容詞について、形態的な語幹クラス、語幹の構造、屈折形の形式と機能、他の品詞への派生についてまとめた。特に新規性のある点として、これまで論じられていなかった比較を表す接辞-(si)kuの統語的/意味的特徴を示した。 次に、喜界町内の小野津・志戸桶・佐手久・坂嶺・中間・上嘉鉄の6集落の方言の調査結果に基づき、諸方言間の音韻対応を整理し、音韻対応と想定される音変化として11項目に渡って語例を挙げて報告した。今後の喜界島方言の歴史的研究の前提として、取り上げた音変化のすべてを共通の改新と考えると齟齬が生じるため、地域特徴あるいは並行的改新と考えられる変化が含まれることを示した。 また、志戸桶方言について自然談話・歌謡を収録し、書き起こしの作業を行い、その一部を自然談話資料としてまとめた。書き起こしの表記には形態素境界、形態素ごとのグロスと日本語訳を示し、また志戸桶方言の音韻体系の記述も含めた。独特の風俗に関する語彙には、注釈で文化的背景の説明を行った。以上により、資料の価値を高め、言語研究にも、また伝統文化の理解にも有用なものとした。
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