研究課題/領域番号 |
12J06510
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
板橋 悠 東京大学, 総合研究博物館, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 西アジア / 初期農耕民 / 生業 / 同位体比分析 / コラーゲン / アミノ酸 / 食性 / 新石器時代 |
研究概要 |
本研究ではティグリス川上流域の先史時代集団の適応と推移の解明を目的とし、トルコ南東部の遺跡出土人骨の同位体分析による食生態の調査を行っている。今年度は筑波大学調査隊の行ったトルコ、先土器新石器時代A期に帰属するハサンケイフ・ホユック遺跡の発掘調査への参加し、人骨、動物骨のサンプリングを行った。またコジャエリ大学、ムスタファ・ケマル大学により調査が行われている銅石器時代に帰属するトルコ、サラット・テペ遺跡の人骨のサンプリングを行った。またこれらの遺跡に加えて、昨年度にサンプリングを行った土器新石器時代に帰属するサラット・ジャーミー・ヤヌ遺跡とハケミ・ウセ遺跡の出土骨試料で骨コラーゲンの炭素・窒素同位体分析を行い、各遺跡集団の食生態の解析を進めている。また海洋研究開発機構との共同研究として、これらの遺跡出土骨試料からアミノ酸を抽出し窒素同位体比分析を行った。アミノ酸の窒素同位体比分析は従来の骨コラーゲンの炭素・窒素同位体分析に比べて、ヒトが利用した食物が由来する生態系の識別に優れており、本研究ではこの特徴を用いてティグリス川上流域の先史集団の河川環境への適応を評価した。 また考古試料でのアミノ酸の窒素同位体比分析と並行して、本研究では古代骨試料から抽出したアミノ酸の炭素安定同位体分析と年代測定法の開発を行った。本研究では昨年度にNMRやガスクロマトグラフ質量分析計を用いて、液体クロマトグラフィで分離されたアミノ酸には実験行程で微量な夾雑物が混入してくることを確かめた。 本研究では同位体生態学的な手法開発と考古・人類学研究を並行して行ているが、これらの研究内容はそれぞれ日本有機地球化学会、日本人類学会、日本西アジア考古学会など地球化学系、歴史人類学系の双方の学会で報告し、研究結果の発表に努めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はティグリス川上流域の先史時代集団の食生態と集落構成、社会構成の変化の関連性を検討するため、新石器時代~鉄器時代の人骨・動物骨のサンプリングを行った。これらの遺跡出土骨からコラーゲンを抽出し、その炭素・窒素安定同位体比分析、アミノ酸の窒素同位体比分析、放射性炭素年代測定を行い、新石器時代における先史集団の食性適応と社会構成の変化を検討した。また本研究では新しい同位体分析法として、アミノ酸の炭素同位体分析の開発を行った。昨年度に明らかになった実験手法に由来する外来炭素源を除去する方法を検討し、液体クロマトグラフィによるアミノ酸の分取過程で混入してくる目的アミノ酸以外の炭素の減少を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに分析を行ったティグリス川上流城に所在する新石器時代~鉄器時代までの各時代遺跡集団の同位体情報と考古学情報を対応させて定住化した狩猟採集民の適応戦略を明らかにし、各地域の狩猟採集民が取った戦略が同地域の初期農耕民にどのような影響をもたらしたのかを検討する。その結果について関連する学会での公表や論文投稿を通じて、考古学者や化学分析の専門家、生理学の専門家との意見交換を行う。またアミノ酸標準試料を用いてアミノ酸の炭素同位体分析のための単離・精製法の検討を行ってきたが、今後は現生の動物骨コラーゲンからアミノ酸を単離し、各アミノ酸の炭素同位体比が測定可能か検討する。また考古試料で食性復元を行うための基礎情報として、現生生物のアミノ酸の炭素同位体比の情報が必要となるため、それぞれの生態的地位にある生物のアミノ酸を単離・分析し、それぞれのアミノ酸の炭素同位体比の分布や食物連鎖による値の分別を求める。
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