幼若ホルモン生合成制御の分子メカニズムの解明とその体内濃度変化に伴う発生タイミングの決定機構の解明を目的として、以下の研究を行った。 これまでの研究により、幼若ホルモンを合成するアラタ体特異的に発現し、尚且つ体内幼若ホルモン濃度と相関した遺伝子発現パターンを示す遺伝子D3及びD4を同定している。また、UASの下流にD3及びD4のセンス鎖、アンチセンス鎖を配置したトランスジェニックカイコガを作成している。これらをカイコガの全身にGAL4を発現させる193-2系統と掛け合わせることでトランスジェニック系統を作出したが、いずれの系統においても発生に明確な変化は確認できなかった。しかし、このトランスジェニック系統の蛹における体重を測定した結果、全身にD4遺伝子のアンチセンス鎖を発現させることでD4遺伝子の翻訳阻害、RNAiノックダウンをさせた系統、193-2>UAS-D4antisenseは、雌雄共にコントロールと比べて体重が有意に増加していることが分かった。 48時間の絶食処理によってD3、D4遺伝子のアラタ体での発現量が有意に上昇することが明らかとなっている。また、このD3、D4遺伝子は脱皮前の24時間程度の絶食期(眠)の後に遺伝子発現量を上昇させることが分かっている。これらのことから、脱皮によってもたらされる絶食期間(眠)がD3、D4遺伝子の発現量を制御していると考え、24時間の絶食処理によるD3、D4遺伝子の発現量を定量した。しかし、48時間の絶食処理時に見られた遺伝子発現量の増加は確認できなかった。また、カイコガで同定されている12種類の幼若ホルモン合成酵素の発現量を定量した結果、48時間の絶食処理では有意な遺伝子発現量変化が見られたが、24時間の絶食処理では同様の変化を確認できなかった。このことから、眠による絶食のみではアラタ体での遺伝子発現は変化しないと考えられる。
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