研究課題
近年、アトピー性皮膚炎の患部のケラチノサイトがthymic stromal lymphopoietin(TSLP)を高産生することが知られるようになった。TSLPはTSLP受容体(TSLPR)を発現する樹状細胞を介してTh0細胞をTh2細胞へと分化させることで、アトピー・アレルギー疾患の病態形成に中心的役割を果たすと考えられている。しかし、TSLPが表皮細胞自身に対する作用は明らかではなかった。そこで今回、表皮におけるTSLPの自己分泌・傍分泌経路の存在を仮定し、検討を行った。ヒト表皮ケラチノサイト初代培養細胞および表皮細胞株HaCaT細胞にRNA干渉法を用いたdeltaNp63ノックダウンおよび種々の自然免疫受容体リガンドを用いた刺激を行い、分子生物学的あるいは形態学的手法により性状を解析した。さらに生検されたアトピー性皮膚炎の病理組織検体を用いた免疫組織化学染色を行い、解析を行った。まず、これまで知られていなかったヒト表皮角化細胞におけるTSLPRの存在を表皮組織に対する免疫組織化学染色によって明らかとした。また、deltaNp63をノックダウンしたケラチノサイトにおいて、TSLPRの発現は表皮幹細胞因子deltaNp63を介した自然免疫経路によって制御されていた。興味深いことに表皮に対するTSLP刺激は更なるTSLP産生を惹起し、その他の炎症性サイトカインの発現も促進していた。抗体を用いてTSLPを中和したところ、これらの炎症性サイトカインの発現は低下した。さらにアトピー性皮膚炎の生検検体をdeltaNp63に対する免疫染色を施行したところ、健常皮膚と比較して有意に発現が低下しており、TSLPRの分布にも異常が見られた。これらの結果からTSLPはケラチノサイト自身にも作用する自己分泌・傍分泌経路を形成し、アトピー性皮膚炎患部表皮の炎症環境の形成、維持に関与していると考えられる。このループを遮断することが、保湿やエフェクター細胞の抑制など、従来のアトピー性皮膚炎の治療に加えられる新規の治療ターゲットとなり得ると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
上記「研究実績の概要」に記載した内容を英文論文としてまとめ、投稿中であることによる。
アトピー性皮膚炎におけるケラチノサイトの役割については当初の計画通りに一定の成果が得られたものと考えられる。さらに表皮ケラチノサイトと同様にdeltaNp63およびTSLPを発現する扁桃あるいは胸腺の上皮細胞が免疫学的に果たす役割について検討していきたい。これらの上皮に関しては、実験遂行に必要な初代培養細胞を入手できる頻度が低い可能性があり、hTERTを用いた延命化を行い長期間の培養が可能になるよう処理する必要があると考えられる。
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巻: (発行中)
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