本研究の目的は、近世近代移行期における土地所有秩序の変容過程を在地レベルで実証し、特に福山義倉という地方名望家の相互扶助的な社会事業団体の分析を基軸に据えることによって、日本近代化の具体的なあり方を、地域社会史の視座から明らかにすることにあった。 本年度の最大の成果は、近世近代移行期における福山義倉の組織変革に関する研究論文を、査読付き学術雑誌に発表することができたことである。従来の研究では、このような組織が維新後にどのような動向をたどったのかが全く問題とされてこなかったが、本論文ではこの点を明らかにすることができた。 また、多くの学会・研究会で研究発表することができた。明治期における福山義倉の救済のあり方を具体的に論じた研究や、旧福山藩主や士族と義倉との争論を分析した研究により、近世と近代の「断絶」面を具体的に明らかにすることができた。さらに、福山義倉の長期的な経営動向を解明する研究発表を行うこともできた。あわせて、在地レベルの土地所有秩序のあり方を再考する試みとして、栗本家文書を用いて、小作契約の継承/非継承と小作料納入率・生産力水準との関係を緻密に実証する作業を深めた。 以上、本研究の目的に沿いつつ、本研究を順調に進展、完了させることができたと考えている。なお、現在は上記に紹介したような研究発表の成果を、研究論文としてブラッシュアップしつつあり、近日中に査読付き学術雑誌に投稿し、公表することを期したい。
|