本研究は人間の持つ温熱覚の呈示技術を中心とし、それを力覚呈示技術と統合させることでマルチモーダル感覚呈示における新たな方法論を構築することを目的としている。本年度は研究課題の最終年度であり、これまでの纏めとして温熱覚および力覚呈示技術の融合を中心として研究を行った。温熱覚や力覚の励起源となる接触現象は、人間・環境間における物理的パワーの授受によって表現が可能である。この点に着目し本研究では、接触において授受を伴う一般化された物理的パワーを呈示再現・遠隔通信する理論枠を構築した。具体的には横断変数および通過変数という一般化物理量を用いており、またシステム内にはパワー授受の再現性能を向上させるために横断変数変化率の制御系を構成している。構築した理論枠は温熱覚呈示のための温度や熱流制御を一般化したものであり、横断・通過変数によって表現が可能であればその物理系の種類を問わない。その例として、本研究では熱・機械システム間におけるパワー授受の混合再現が可能であることを確認するに至った。本例に挙げられるように、本研究の内容はこれまでにない触覚情報呈示システムの構築に繋がるものであり、マルチモーダル感覚呈示分野において意義を有すると考えられる。 上記内容を実際に適用するにあたり、システム間の通信遅延や熱デバイスの応答性が留意すべき点として考えられる。本研究ではこれらの点も考慮に入れ、遅延補償器の円板定理に基づいた安定動作の保証法や、金属板に温度勾配を設けた熱デバイス機構の開発などに関して成果を挙げている。研究で得られた知見は1件の国際学会発表、3件の国内学会発表および1件の学会誌論文として成果へと結実することができた。
|