研究課題/領域番号 |
12J06727
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松井 真雪 広島大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | Acoustic phonetics / Laboratory phonology / Speech perception / Incomplete neutralization / Voicing contrast / Final devoicing / Russian |
研究概要 |
本研究の主目的は、次の2点である。第1に、ロシア語の語末位置における有声阻害音の無声化(final devoicing : FD)を事例として、音声産出と音声知覚の両観点から中和という現象を検討することである。第2に、不完全中和という現象と言語理論全般との関わりを考察することである。これらの目的を達成するために、前年度に引き続き、ロシアでの現地調査をおこないながら、問題の検討を続けてきた。 本年度前半は、当初の予定通り、音声知覚の諸問題に重点的に取り組んだ。筆者は昨年度の取り組みの過程で、ロシア連邦オレンブルグにおいてロシア語母語話者の中和位置の音声知覚に関する実験資料を収集しており、その資料の分析をおこなうことによって、中和することが予測される音声に対する、聞き手の知覚(音声同定)パタンを探った。その結果、先行研究においては同一のプロセスを経て中和されると考えられてきた閉鎖音と摩擦音が、音声知覚に関しては異なるパタンを示す可能性が示唆された。 年度後半は、当初の予定では、同一話者内での中和音声の産出と知覚のパタンを実験結果に基づいて議論する予定であったが、博士論文の構成と最新の研究動向を考慮の上、計画を一部改訂した。具体的には、有声性の「中和」に関する問題を明らかにするために、有声性の対立が保持される仲和が起こらない)と言われている音声環境における有声性の音響的相関物や知覚混同パタンを合わせて検討することにした。上述の問題を検討するために必要な録音音声収集は、平成25年9月にロシア連邦オレンプルグ市での現地調査によって得た。資料の分析および今後予定されている知覚実験は、来年度まで継続される重要な研究課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度前半に予定されていた現地調査(音声知覚実験)は予定通り遂行され、分析も滞りなく進めることができた。年度後半の計画は一部改訂されたが、改訂によって、「中和」を「対立」とともに捉えるという方向性が定まった点は有意義であったと考える。また、今年度を通して、論文執筆や学会発表を積極的に行い、国内外の研究者と研究成果を共有することできた。以上から、本研究は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
「9. 研究実績の概要」にも記したように、論文の構成と最新の研究動向を考慮の上、計画を一部改訂した。即ち、当初の予定では、同一話者内での中和音声の産出と知覚のパタンを実験結果に基づいて議論する予定であったが、有声性の対立が保持される(中和が起こらない)と言われている音声環境における有声性の音響的相関物や知覚混同パタンを合わせて検討していくことにした。来年度は本課題の最終年度ということで、これまでに実施してきた調査結果をとりまとめる作業とともに、理論的な考察を進めていく見通しである。
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