本研究の主目的は、(I) ロシア語の語末位置における有声阻害音の無声化 (final devoicing; FD) を事例として、音声産出と音声知覚の両観点から中和という現象を検討すること、(II) 不完全中和 (incomplete neutralization) と言語理論全般との関わりを考察することであった。研究課題の最終年度にあたる今年度は、第1年目と第2年目に収集した調査資料をとりまとめ、その理論的位置づけを考察することに費やされた。具体的には、喉頭特徴の類型論的研究で提案されているロシア語の喉頭素性を再検討し、改定案を提案した。その提案に基づいて、ロシア語のFDを再解釈した。喉頭特徴の類型論において懸案課題となっている「passive voicingの謎」と、ロシア語の語末位置に生じる「不完全な」無声化 (FD) は、共通の原理によって説明できる可能性を提案した。
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