研究概要 |
歯胚,および歯原性細胞株におけるHippo伝達経路関連遺伝子群のmRNA発現についてRT-PCRにより解析を行い,マウス胎児歯胚と歯原性上皮細胞株(SF2),歯原性間葉細胞株(mDP)において関連遺伝子群のmRNAの発現について確認した。次に歯の発生過程において特徴的な発生段階であるBud stage,Capstage,Bellstageにおいて免疫染色を行った結果,核移行蛋白で転写補助因子であるYapは,各発生段階において細胞増殖が盛んな部位に局在していることが確認された。また,他の関連分子群(Mst1/2,Lats1,Mob1A,Mob1B)は,歯胚の各発生段階において上皮,間葉組織にそれぞれ特徴的に局在していることが確認された。次に,歯原性細胞株における関連分子群の発現局在について免疫染色により解析を行った結果,Yapは細胞密度の異なる条件下にて発現局在が異なり,低密度培養下では核内,高密度培養下では細胞質内に発現していることが確認された。さらに,SF2にBrdUをラベル後,抗BrdU抗体と抗Yap抗体により二重染色を行った結果,BrdU陽性細胞は核内Yap陽性細胞と高確率で一致していることが確認されたことより,歯原性上皮細胞においてYapが細胞増殖について重要な役割を果たしていることが示唆された。また,SF2においてYapの上流に位置するMst1/2に対するsiRNAを導入し増殖実験を行った結果,control群に対しMst1/2siRNA導入細胞株では,いずれも細胞増殖の亢進が認められた。また, Mst112siRNAを導入したSF2をNT-4(Neurotrophin-4)により分化誘導した後real time PCRにより歯原性上皮細胞の分化マーカーであるAmeloblastinなどのmRNAの発現について解析した結果分かマーカーの発現抑制が確認された。また,NT-4にてSF2を刺激しその際の関連分子群のリン酸化についてWester nblottingにより解析を行った結果,NT-4刺激後短時間に伝わる刺激と比較的時間が経ってから伝わる刺激の二峰性に刺激が伝わることが確認された。このことより,歯胚においてはMst1/2を介してYapのリン酸化が起こる経路以外に,Mst1/2を介さずにYapのリン酸化が起こる経路の存在の可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
歯の発生過程における蕾状期,帽状期,鐘状期について、Hippo伝達経路関連分子群(MST1/2, Ww45,Lats1/2,Mob1A,Mob1B,YAP)の発現についてより詳細な解析を進める。また、MST1/2の抑制系に加えて,発現ベクターを利用しMST1/2過剰発現系を作成し細胞増殖,細胞分化について検討を進める。また、マウス胎児より歯胚を採取し器官培養を利用して形態形成解析を行う。この他、Hippo伝達経路に対し影響を与える新規調節因子の探索、関連分子群のノックアウトマウスの歯牙の大きさ,形態,強度やエナメル質,象牙質の形成程度,咬合状態などについて解析を行う。
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