研究課題/領域番号 |
12J06802
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深谷 雄志 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | microRNA / GW182 / Argonaute |
研究概要 |
小さなRNAの一つであるmicroRNAは、標的とするmRNAからのタンパク質合成を適切に抑制することで、発生や細胞増殖といった重要な生命現象を緻密に制御している。しかし、「micrORNAがどのようにして標的遺伝子を抑制するのか」という根本的な謎については、これまで相反する様々な報告がなされており、正確な理解が遅れていた。 micrORNAは単独ではたらくわけではなく、機能を発揮するためには、いくつかのタンパク質と複合体を形成することが必要である。この複合体で中心的な役割を担うのがArgonauteと呼ばれるmicrORNA結合タンパク質と、Argonaute結合タンパク質であるGW182である。 タンパク質の設計図として働くmRNAは通常、末端にPoly(A)鎖と呼ばれる特徴的な構造を持っており、翻訳の促進やmRNA自身の安定化に寄与している。microRNAは、標的mRNAの「Poly(A)鎖の分解」と「翻訳抑制」を介して遺伝子発現を抑制することが知られているが、GW182は、micrORNAがこれらの機能を発揮するために必須の役割を担っていると考えられてきた。 昨年度、私は、GW182が存在しない状況を作り出し、その際のmicrORNAの振る舞いについて詳細な解析を行った。 その結果、従来考えられてきたように、GW182はmicrORNAによる「Poly(A)鎖の分解」には必須であったが、一方で「翻訳抑制」はGWI82非存在下においてもきちんと進行することを初めて明らかにした。さらにGW182自身も「翻訳抑制」を誘導する活性を持つことから、microRNAによる標的遺伝子の発現抑制には、1)GW182依存的な「Poly(A)鎖の分解」、2)GW182依存的な「翻訳抑制」、3)GW182非依存的な「翻訳抑制」、の少なくとも3つの経路が寄与することを世界に先駆けて発表した。過去の報告では、これら複数の異なる現象をひとまとめにして観察してしまっていたために、一見矛盾する結果が生じていたと推測される。本研究内容は米科学誌Molecular Cellに掲載され、掲載号の表紙を飾った。今回の発見は、microRNAが遺伝子発現を正しく制御するしくみの解明につながる成果であり、その正確な理解に基づく医薬等への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
microRNAの働きがGW182に依存せずに発揮されるという、予期しない発見があった。この発見をもとに、microRNAが複数の経路を介して標的遺伝子発現の制御を行っているという新たな概念を世界に先駆けて発表した。 当初の計画を遂行する上では想定していなかったmicroRNAの作用機構を明らかにすることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究結果により、microRNAが翻訳の初期段階を阻害することで標的mRNAからのタンパク質合成を抑制していることが示唆された。しかし、どの翻訳開始因子に作用することによって、翻訳抑制を行っているかは明らかとなっていない。そこで、標的mRNA上の翻訳開始因子の挙動を解析するための実験系を構築し、miRNAの有無による影響を解析する予定である。
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