研究課題/領域番号 |
12J06812
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
松原 綱之 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | ニュートリノ / 混合角θ_<13> / 原子炉ニュートリノ / 精密測定 |
研究概要 |
本研究は国際共同実験Double Choozにおいてニュートリノ混合角θ_<13>の超精密測定を行うことを目的とする。本実験は2011年11月に最初の解析結果、sin^22θ_<13>=0.086±0.041(stat)±0.030(sys)を発表し、他実験結果と合わせてθ_<13>が有限値を持つ兆候を世界ではじめて示した。申請者は、この結果を2012年3月のモリオン国際会議で発表した。その後、他原子炉ニュートリノ実験によってθ_<13>有限値の初観測が達成された。現在はθ_<13>の精密測定を目指す局面に入っており、いまなお熾烈な競争にある。θ_<13>の値を正確に決めることは、フレーバーの起源の謎にいっそう迫るとともに、将来のCP対称性の破れδ_<cp>測定に向けた実験デザインについて具体的な議論を行うためにも重要となる。 本研究ではθ_<13>測定感度向上のために、ニュートリノフラックスとエネルギー再構成精度に由来する系統誤差の削減を目標に掲げた。前者の系統誤差の削減には前置検出器の建設が必須である。フランス企業による実験場建設に遅延があったものの、現在までに実験場の準備は完了し、検出器建設にとりかかっている。2014年には前置・後置検出器での測定を開始して、ニュートリノフラックス起源の系統誤差を大幅に削減する予定である。一方、後者の系統誤差の削減については、事象ごとの電荷と時間情報から事象発生位置ごとにエネルギー再構成を行い、再構成精度を大幅に改善することに成功した。初期解析結果に比べて2倍の統計量と新しいエネルギー再構成などの改善された解析手法を用いて、2012年6月にニュートリノ国際会議において結果を更新、sin^22θ_<13>=0.109±0.030(stat)±0.025(sys)とθ_<13>をより高精度で測定した。申請者は日本物理学会2012年秋季大会のシンポジウムにて本研究成果の講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、エネルギー再構成精度の改善によってθ_<13>により高精度で測定することを第一目標とした。これは、2012年6月に京都で行われたニュートリノ国際会議で発表したように、系統誤差を3%から2.5%まで抑えることにより達成した。残る系統誤差のうち最も大きなものはニュートリノフラックス(1.7%)であり、前置検出器により削減可能である。こちらも実験場の準備は完了し、2014年からの測定を目指し検出器の建設が始まっている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、2014年からの前置/後置検出器を用いたθ_<13>測定を目指して検出器建設を最優先課題に設定する。国際共同実験であるが故に建設スケジュールを遵守するのは日本グループだけでは難しい面もあるが、担当するケーブリングや光電子増倍管の設置など、後置検出器建設時に培った経験を生かして貢献したい。また、θ_<13>にいっそう厳しい制限を与えるべく、エネルギー再構成手法のさらなる改善に取り組む。具体的にはモンテカルロシミュレーションの調整や再構成手法の高度化、系統誤差見積もり手法の改善などを並行して行う。これは、前置検出器完成後のθ_<13>超精密測定にも必要不可欠なものである。さらに、θ_<13>の有限値が測定されたことをふまえて、原子炉ニュートリノ実験のグローバル解析による質量二乗差Δm^2_<13>の測定可能性を新たに検討する。
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