研究概要 |
リグニンは地球上の炭素源としてセルロースに次いで大量にある天然高分子だが、難分解性である。そのため、リグニンで覆われるリグノセルロース系バイオマスの微生物発酵によるエネルギー生産では、リグニンを前処理し、酵素や微生物が細胞壁多糖にアクセスできる状態にする必要がある。メタン発酵は絶対嫌気で進行するため、好気前処理物の投入により、反応槽に混入する酸素の悪影響をうける。よって、メタン発酵の前処理としては、嫌気性処理が望ましい。そこで、嫌気的な環境で牧草を分解するウシの第一胃に着目した。ウシ第一胃内容物(ルーメン液)は食肉処理場で大量に廃棄され、排水処理場に大きな負担をかけている。 リグノセルロース系バイオマスのメタン発酵の効率化を目標に、嫌気条件下でルーメン液によるリグニン分解処理を実施した。モデルとして古紙(セルロース71.8%,ヘミセルロース18.5%,リグニン8.9%)をルーメン液処理し、その処理物を30ml/dayの割合で毎日メタン発酵リアクターに投入した結果、 1.コントロール(ルーメン液処理無し)では、過剰なプロピオン酸が蓄積(pH6.5まで低下)し、メタン発酵を阻害した。一方、ルーメン液処理区では、過剰な有機酸の蓄積はなく安定したメタン発酵を継続できた(pH7~7.5)。 2.ルーメン液処理により、原料のリグニン分解率は、コントロールと比較して4.8倍向上した。 3.ルーメン液処理により、メタン収率は改善された。ルーメン液処理区では、理論収率に対して73.4%のメタンが得られたのに対し、コントロールでは60,8%にとどまった。 4.また、ルーメン液自身もメタン発酵基質となったため、メタン生産量はコントロールと比較して2.6倍増加した。 今年度の成果から、ルーメン液はin vitroで嫌気的にリグニンを分解し、窒素源としても有効に作用し、自身も基質となることが明らかになった。よって、ルーメン液は効果的なリグノセルロース性バイオマスのメタン発酵前処理触媒となることが期待される。
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