研究課題/領域番号 |
12J06852
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
梶谷 直人 広島大学, 大学院・医歯薬保健学研究院, 特別研究員(DC1)
|
キーワード | 抗うつ薬 / アストロサイト / FGF-2 / モノアミン |
研究概要 |
本年度はラット初代培養アストロサイトを用いて、抗うつ薬(アミトリプチリン)によるFGF-2(塩基性線維芽細胞増殖因子)の産生メカニズムを解明する目的で以下の通り実施した。 1.アストロサイトにおける抗うつ薬によるFGF-2 mRNA増加作用と比較して、モノアミン(セロトニン・ノルアドレナリン:各10μM)によるFGF-2 mRNAの発現変化を調べたところ、セロトニンでは変化を及ぼさなかったが、ノルアドレナリンにおいてFGF-2の発現が誘導されることを明らかにした。 2.ノルアドレナリンによるFGF-2の誘導作用を薬理学的検討により調べたところ、α1及びβ受容体を介してFGF-2を誘導することが明らかになった。 3.アミトリプチリン(25μM)によるFGF-2産生作用には、α1並びにβ受容体を介さずに誘導されることが明らかになったことより、アストロサイトにおいて、抗うつ薬はモノアミンとは別のメカニズムでFGF-2を産生することが明らかとなった。 4.アミトリプチリン誘導性FGF-2 mRNAはタンパク質翻訳阻害剤であるシクロヘキシミドの併用によって抑制されたことから、抗うつ薬は新たに合成された何らかのタンパク質を介してFGF-2の発現を誘導していることが示唆された。 以上の結果から、抗うつ薬の治療効果に関与する一つであるFGF-2の産生作用には、抗うつ薬がアストロサイトに作用して、モノアミンとは異なった経路であること、並びに新たに合成されたタンパク質を介したメカニズムであることが明らかとなった。これらの結果は、抗うつ薬がアストロサイトに対して作用するとするこれまでとは異なった新規薬理作用である可能性を示唆するものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに抗うつ薬によるFGF-2産生メカニズムについては、1).モノアミンと異なったメカニズムであること、及び2).新たに合成されるタンパク質を介すことの2点を明らかにすることができ、当初の初年度の予定通り、FGF-2産生メカニズムの解明が進んでいる。さらに2).の結果を足がかりに今後、さらなるメカニズムの解明が進むことが予想される。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、アストロサイトにおける抗うつ薬によるFGF-2産生メカニズムのさらなる解明と共に、培養細胞を用いて明らかにしてきた現象を、動物を用いたin vivo実験でも明らかにしてゆきたい。 具体的には、培養細胞を用いた実験では、新たに合成されたタンパク質の候補として転写因子の関与を、薬理学的検討で調べてゆく予定である。In vivo実験では、抗うつ薬によるFGF-2の産生作用にアストロサイトが重要であることを示唆するため、in situ hybridization法を用いて、抗うつ薬を投与時の脳内でのFGF-2の局在を調べてゆき、アストロサイト特異的なFGF-2の発現変化を検討する予定である。
|