これまでに、抗うつ効果に重要な役割を果たす塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)産生作用において、アストロサイトを標的とした抗うつ薬(amitriptyline)の薬理作用として、転写因子early growth response 1(EGR1)誘導が重要なシグナル分子であることを明らかにした。本年度は、さらなる上流のシグナルメカニズムの解明を目的に研究を実施し、以下の結果を得た。 (1)培養アストロサイトにおいて、amitriptyline誘導性EGR1増加作用は、FGF受容体阻害剤SU5402もしくはepidermal growth factor(EGF)受容体阻害剤AG1478を前処置することで抑制された。同様に、amitriptyline誘導性FGF2 mRNA増加作用もSU5402やAG1478前処置で抑制された。(2)アストロサイトのFGF/EGF受容体を活性化させる機構として、matrix metalloproteinase(MMP)を介したリガンドの切り出しによる機構が知られており、amitriptylineによるEGR1やFGF2発現増加作用もMMP阻害剤で抑制されたことから、amitriptylineはMMPを介して下流シグナルを活性化させる可能性が示唆された。(3)MMP活性化剤であるAPMAを培養アストロサイトに処置することで、抗うつ薬同様にFGF2 mRNA発現が増加した。 以上得られた知見から、培養アストロサイトにおいて抗うつ薬amitriptylineは、MMP/(FGFR and EGFR)/ERK/EGR1シグナルカスケードを介してFGF2の産生を増加させる可能性が示唆された。 これらの知見は、従来の抗うつ薬の薬理作用とは異なるアストロサイトを標的とした新たな治療薬の開発につながることが期待できる。
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