研究課題/領域番号 |
12J06861
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
李 カリン 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ため池 / 生物多様性 / 多面的機能 / 多義的枠組み / 里山 |
研究概要 |
本研究は環境倫理から二次的自然をめぐる学際的な分析を可能にする自然概念提供を目的にする。そこで本研究はフィールドワークを基本とする社会学的な研究手法を用いて、現場の問題から出発してローカルな環境倫理を構築することにした。一年のフィールドワークを通じて環境倫理的規範をため池保全の多義的枠組みから抽出した。 兵庫県加古川市富木地区におけるフィールドワークを引き続き行い、人間とため池のかかわりを時間軸、及び主体ごとに整理し、ため池保全における多義的枠組みを明細化する。加古川市西地区ため池協議会の設立過程についての調査を通して、生物多様性保全、農業水利、防災を意図とする広範囲にわたる地域連携の枠組みを明らかにできる。さらに、重層的な多機能的な社会、特にコミュニティのあり方を、従来のコミュニティ論を参照することにより、検討し、公共哲学で議論されてきた問題設定に対して接合を図るようにする。 平沢池の鯉揚げを調査することによって、富木地区の従来の池干しの様子を伺うことができるだけでなく、京都のなかでも唯一持続されてきた鯉揚げ一魚販売の特徴を把握することができた。 生物群集が国の天然記念物に指定された京都市の深泥池における調査で、東播磨地区のため池保全の違いを比較し、社会科学と自然科学の両方の視点から分析を行う。 岩首、月布施の棚田を見学し、棚田耕作者のインタビューを通じて、棚田の米の収益で生計が成り立たなくなっている中で、耕作者は副業、退職金で現金収入を得ながら棚田を耕作し続けるために、棚田見学、トキの餌場としてのビオトープ作りをして工夫を凝らしている。それは兵庫県の加古川市のため池で見られた事例と同様に、現代的な複合生業を行いながら、余白の農業を棚田で工夫して行われている実態を明らかにした。 その分析結果を『野生生物と社会』への論文の投稿を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)事例調査:広範囲にわたりフィールド枠を行い、加古川市、京都市、綾町、佐渡市などに及ぶ。さまざまなタイプの二次的自然に対する調査研究を通して環境倫理学的規範を抽出することができた。(2)文献調査風土、二次的自然、原風景、風水思想、内なる自然などの環境思想、生態学、民俗学において気論されてきた概念を念頭に置きながら、自然概念を環境倫理の枠組みで構築した。(3)投稿論文:現在『野生生物と社会』にて投稿し、刊行にむけて改稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
環境倫理学の従来の議論を再検討するとともに、環境プラグラティズムの議論の有効性を検討し、環境保全、特に二次的自然の保全における環境倫理学的研究をよりダイナミックに捉えるべく全体の議論を整理する。そして自然概念について多様な文脈における多義性、そして個人の主観性、集団における間主観性を視野に環境倫理的に構築し、人間と自然の関係性に関するメタレベルでの環境倫理的規範をため池保全の多義的枠組みから抽出する。さらに二次的自然の保全に関する関連文献を改めてのレビューを行うと共に、二次的自然に関する新しい理念的なモデルを構築する。このような理論的な研究に関しては、『科学技術社会論研究』『日本生命倫理学研究』『応用倫理学研究』等への投稿を行う。 さらに、2年間の現地調査で得られたデータ及び資料を整理・分析する。引き続き現地調査と資料解読を行い、分析の精細化をはかる。これらの成果をまとめて『環境社会学研究』に投稿する。
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