研究概要 |
治療を行う前に、疾病に関係する生体機能分子の挙動を把握することは、患者の炎症病態の詳細な解析や分子標的治療の治療効果を予想するうえで非常に有用である。そのため、炎症性腸疾患の病態に密接に関与する生体機能分子の発現・動態を画像化できる放射性薬剤の開発が望まれるが、これらの分子を標的とした放射性診断用薬剤の開発はほとんど報告されていない。一方で、申請者はこれまで、腸の炎症部位において、炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)のmRNAの発現量が、腸炎の起きる早期の段階から、腸炎の進行度に応じて増加することを見出していた(Higashikawa, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2011)。そこで、腸の炎症部位において発現量が著しく増大しており、且つ炎症性疾患の治療の標的分子としても注目されているインターロイキン-1β(IL-1β)を画像化するための放射性薬剤を開発することを目的に研究を行った。 放射性薬剤は、抗IL-1β抗体と2,2',2"-(10-(2-((2,5-dioxopyrrolidin-1-yl)oxy)-2-oxoethyl)-1,4,7,10-tetraazacyclododecane-1,4,7-triyl) triacetic acid (DOTA-NHS-ester)を反応させてDOTA-抗IL-1β抗体を作製し、これをポジトロン放出核種である^<64>Cuで標識することで作製した。作製した放射性薬剤(^<64>Cu-DOTA-抗IL-1β抗体)を、正常のBALB/cマウス、および炎症性腸疾患モデル動物として汎用されているデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発大腸炎モデルマウスに投与し、腹部への放射性薬剤の集積をポジトロン断層撮像(PET)で調べた。その結果、正常マウスと比較して、DSS誘発大腸炎モデルマウスでは、プローブ投与48時間後において、腹部へのプローブの集積量の増加することを見出した{Standard uptake value (SUV) max : 2.77±1.01 (DSS誘発大腸炎モデルマウス)vs. 1.41±0.13(正常マウス)}。すなわち、これらの結果から、^<64>Cu-DOTA-抗IL-1β抗体が炎症性腸疾患を診断するための放射性診断用薬剤となる可能性を示すことができた。
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