研究課題/領域番号 |
12J06891
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉本 聡志 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | スピントロニクス / スピンダイナミクス / スピントランスファートルク / 磁気抵抗効果 |
研究概要 |
磁気ソリトンを用いた人工格子系の構築への基幹として、単位構造となる磁気渦対について研究を進めた。研究手法として、磁気光学Kerr顕微鏡を用いた時間分解測定と、磁気抵抗効果の整流作用を利用した周波数分解測定の二つの手法が採られた。 時間分解測定においては、パンプ・プローブ法によりフェムト秒オーダーの分解能での測定を行い、横Kerr効果により、連結系の渦芯ダイナミクスの直接観測に成功した。この測定により、周波数分解測定で議論されていた、磁気渦結合強度とVan der Waals力との距離依存性においての相似性が確認され、さらにエネルギー散逸の詳細を追うことが可能となった。その結果、粘性散逸定数が結合強度に依存せず、磁気渦構造自体の内因効果により決定することが見いだされた。これは、今後系の拡張を行う上で、有利な情報である。一方で、現時点では、他連結系の実験には、測定感度、特に空間分解能が不十分である。そのため、本項目については、今後測定システムの見直し、改善を行う必要がある。 周波数分解測定においては、2連結系での位相検波についての研究が進められた。反射信号を高速サンプリングオシロスコープで1ナノ秒以上の精度で参照信号のモニタリングすることで、精密な位相検波を行った。この手法により、スカラーDC電圧測定にも関わらず、位相情報を独立して取り出すことが可能となった。これにより、過去報告では解析モデルの縮退パラメーターだった渦芯の位相を直接観測することができ、二連結系における任意の結合モードを初めて実験的に観測された。これは、同系が結合の距離依存性に加え、結合の空間対称性においても、原子番号8以上の等核二原子分子と同等であることを示している。 更に、同2連結系において、与えられたエネルギーに応じ、励起電流位相と独立に、コアの回転位相が、同位相回転と反位相回転にフェイズ・ロックされる現象が、実験的に初めて観測された。この結果は、同システムを用いたスピントルク・オスシレーターにおいて、零磁場下でのQ値の向上が期待される。 並行し連結系の拡張も行われた。本年度では、最大で一次元鎖状の三連結系までの実験、解析が行われた。その結果、同一の素子においても自由度であるポラリティを変調することで、渦芯の伝搬位相差が変化し、集合モードの波数が選択できることが観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スピン整流作用を利用した電気測定では、位相検波、系の拡張については、開始当初からの研究結果に対し、概ね順当に進展した。これに加え、非線形効果であるフェイズ・ロックが観測されたことは、対象としている連結系がデバイス上の観点からも有用であることを示唆する興味深い結果である。一方で、磁気光学測定に関しては、当初の研究計画で見積もられたほどの、検測感度、安定性が得られず、未だ技術的に改善する必要が残る段階である。これらを総合し、概ね計画通りと評した。
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今後の研究の推進方策 |
2連結系で得られた知見、技術を基に、新規のスピンデバイスの創出を目指す。第一に、系を一次元状に拡張して、渦の極性により可変なバンド構造を検証する。また、極性選択により集合ダイナミクスの特性が大きく変化することを利用し、電気操作によるごく簡便な2次元論理回路のモデル・ケースの作成を目指す。ここでは、パルス電流によるポラリティの反転と、幾何的非対称性を導入することによる面内カイラリティの配列が系のユニークな自由度となる。並行して、磁気光学検波技術の向上を図る。これにより、取扱いの比較的簡便な低次元結合系について、エネルギー散逸の定量評価、非線形効果であるフェイズ・ロックにおけるスピンダイナミクスの詳細を議論することを目標とする。
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